【観光業界人インタビュー】JTB専務取締役、JTB総合研究所社長 日比野健氏


JTB専務取締役、JTB総合研究所社長 日比野健氏

JTB総合研究所の役割

未来の傾向を読み解き 観光のチャンス広げる

──「ツーリズム・マーケティング研究所」の事業を継承し、JTBの創立100周年記念事業の一環として6月1日に設立した。なぜ、新たなシンクタンクが必要なのか。

 「まず、『アジア観光ビッグバン』が現実になってきた。さらにはインターネットやモバイルフォン、SNS、LCCなど旅行を後押しする材料が増えている。それらの物事を読み解いて、国や消費者、JTB、あるいはツーリズムを支える地元の自治体、宿泊施設、鉄道、航空会社、土産物店などに情報を整理して発信しなければならない。また、『旅の5つの力』、経済への貢献や健康への影響、交流の促進など、ツーリズムを超える領域が着地型ビジネスの推進で広がっている。量の拡がりや質の観点からツーリズムが大転換を迎えているなかで、総合研究が求められている」

──社長の抱負は。

 「過去のデータ集約や整理は最低限やるが、むしろ未来の傾向を読み解いて、それがツーリズムにとってチャンスだったら、広げる方向に持っていきたい。こういうトレンドがある、この方向性でこういった成功例が出た、といった先取りをし、ツーリズムを支える人たちに的確に伝える。そして、普通10年かかるとしたら5年でムーブメントを作る。アジア観光ビッグバンでタイやインドネシア、イスラム圏の人たちの旅行も爆発する可能性がある。それをチャンスと判断したら、総研がイスラムのハラル料理についての研修を旅館などに向けて開催するのもいいだろう」

──JTBグループの頭脳としての機能は。

 「単年度のキャンペーンなどではなく、中期の2015年に向けて、どういう市場になっていくのか、製販一体の仕組みをどう築いていくか、そのときにIT技術をどう活用するか、といった議論をしている」

 「熟年層が圧倒的に動き出している。仮説だが、漠とした不安が広がっているので、旅行などで体を動かすことで自分の存在を確かめているのではないか。年金を完全に受給してから、記念旅行をする、定期的に旅行をしてアクセントをつけながら生きていく、というような動きがかなり出てくる。それが今年始まり、最低でも7年間は続く。JTBの旅行事業本部とプロジェクトを作って、その動きを増幅させようとしている。旅行市場が質・量的にどう変わるのか未来を予測して、販売拡大に取り組む」

──国の観光政策に対してどう協力していくのか。

 「新しい観光立国推進基本計画では、サービスの満足度を高めることに重点を置いている。具体的な実行策はまだ出てない。1つには、それを提案するとか。また観光庁が力を入れているのは、インバウンド、MICE、地域の活性化だ。それらについては観光庁といろいろな状況で話し合いをして、お手伝いをしている。ビザを少し緩和するとか、やり方を変えれば、インバウンドの1千万人はすぐに達成する。医療ビザは非常に期間が短い。医療目的で来た人たちにはアフターケアのために1カ月半くらいのビザが必要といった提言をしていきたい」

───旅館・ホテルとのかかわりは。

 「観光庁の問題意識として、観光産業の生産性の向上がある。その観点で、旅館の健全経営のためのいろいろな提言を行っていく。アジアを中心にインバウンドが増えてくる時の旅館のあり方も課題。富裕層が当面のターゲットだが、今後爆発する大衆層へのサービスの提供の仕方はどうなのか。地域の観光素材はどうあるべきなのか、そういった課題が浮かび上がってくるので、提言をしていく。LCCの利用もどんどん増える。利用客のプロファイルを解き明かして、その人たちにアピールできる旅館ライフとは何か、解説を加えてデータを提供したい」

───今後の研究課題は。

 「旅館のスタッフやボランティアガイドも含めて、熟年層にも若者層にも地域を盛り上げる動きが明らかに出てきている。このように激しく動き出した国、時代はない。社会的に新しい動きであり、その人たちの幸福感を社会科学的にどう見るべきなのか興味深い。サービスを支える地域の人、一人ひとりのモチベーションの研究をしたい。例えば、旅館のスタッフに自分の立ち居振る舞いが日本のおもてなし文化を支えているという誇りを持ってもらえたら、肉体労働的な部分もあるが、やる気が出てくる。そうすれば旅館全体のサービスも良くなる」

【ひびの・けん】

JTB専務取締役、JTB総合研究所社長 日比野健氏

 
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