新社長の事業展望
添乗員と女性で企画力向上 旅館・ホテルと商品開発を
──これまでの経歴は。
「全日本空輸(ANA)に入社以降、営業系のマーケティングとセールスについてはすべての分野をやった。直接旅行業の経営に携わったのは、01年から2年間エーエヌエートラベル・オキナワの社長を務めた時。責任の大きさを痛感すると同時に、飛行機購入などの投資により事業を行う航空会社と、航空座席などを仕入れて販売する旅行会社の違いを強く感じた」
──前身であるANAセールス&ツアーズ時代から旅行事業にかかわっているが、貴社の弱みと強みとは。
「キャリア系旅行会社であることは、強みでもあり弱みでもある。ANAグループの戦略的な旅行会社として、路線計画に伴ったレジャーを中心とした旅客開拓が役目なので、情報も入りやすいしダイナミックな動きができるのは強みだ。一方で、グループの航空会社を利用した旅行商品の造成、販売に限られるので、機材の小型や路線計画などの影響を受けやすく、商品のラインアップを含め経営面での制約がある点は難しいところだ」
「70年代に発売した北海道スキーツアーはじめ新しい商品に着手する企業風土が当社にはある。新商品は経営的にはリスクもあるが、そういう風土は強みととらえている」
──稲岡体制の方針をうかがいたい。
「東日本大震災もあり、11〜12年度の経営計画を12〜15年度くらいの中長期計画として作り直したい。現在旅行業は、航空券の発券手数料がなくなるなど大きな変革期にある。それらを踏まえた上で、将来の旅行業像を見据えながら『旅行業の再生プラン』となる計画を作りたい。ダイナミック・パッケージに軸足を置いたウェブ販売の強化と合わせ、ホールセラー事業、訪日事業が計画の柱だ」
「ホールセラー事業については、ANAが航空座席の需給バランスを保つ方針なので、価格訴求よりは『少量多品種、高付加価値』での勝負。となれば重要なのは商品企画力だ。企画力向上策の1つとして、現在は20人程度の自社添乗員を100人程度まで増やしたい。現地も顧客の声も知っている、そしてホスピタリティにも優れているという添乗員ならではの資質は、良い商品づくりには必須のものだ」
「また業界では頻繁に『旅行需要は女性が引っ張っている』と言われるが、業界を引っ張る女性は少ない。『旅行業界のベネッセ』を目指して女性が活躍できる環境を整えることで、企画力向上と併せ、会社に活力を与えたい」
「訪日事業はビジネスとしてはまだ難しいが、日本を元気にするもの。その一翼を担いたいとの意味から事業の柱と位置付けている。また国内航空需要が減少する一方で座席供給量は他社参入などの要因から増加しており、需要喚起が求められている。当社が訪日旅行の取り扱いを増やすことで国内線利用の拡大につなげたい。7月からは中国人向け数次査証も解禁された。外国人客向けの割安な国内線乗り継ぎ運賃のアナウンスと併せ旅館・ホテルの協力により上質な旅行の造成も進め、現地の旅行会社に提案していきたい」
──ANA出資の格安航空会社(LCC)「ピーチ・アビエーション」との付き合い方は。
「ピーチ社に同社便利用の旅行商品を作りたいとアプローチしているが、『エージェントに頼ってはローコストにならない』との反応で、実現するかは見えない。LCCには『ウェブ販売=ローコスト』と思っている人が多いが、ウェブを使わずに旅行商品を買う人は絶対数いるし、紙媒体による宣伝効果は確実にあり、コスト面と併せLCCがエージェントと付き合うメリットはある。ピーチ商品実現の際のホールセラーになれるよう説得を続けたい」
──東日本大震災の影響は大きいが、今年下期、来年以降の展望と施策は。
「売り上げは確実に回復基調で、第2四半期には確実にほぼ前年並みまで回復する。秋以降も期待はしているが、第1四半期の落ち込みを取り戻せるというものではないだろう」
「来年度は東京方面商品に大々的に取り組みたいと考えている。実は以前私がやり残した仕事に、地方の人にANA国内線で東京に来てもらおうという商品『メイドイン東京』があり、もう一度取り組みたいと考えている。今回は首都圏の人にも売れる観光素材を発掘、活用して、首都圏の人と地方の人の双方にアプローチしたい。そのためにも東京はじめ首都圏の旅館・ホテル、観光施設の皆さんの協力を受けながら、一緒になって作りたい」
──東北観光の復興にはどう取り組むか。
「東北方面へのANA便は、仙台、福島のほか、秋田県の能代、大館、山形県の庄内の各便があることから、東北はわれわれ航空が力を入れなければならない場所だ。現在、他社との共同企画を実現できないか話し合っている。また東京〜庄内線は10月1日に就航20周年を迎えるので、周年を絡めた商品を作る方針だ」
「東北にはいろいろな魅力があるが、田植えの頃の水の張られた水田の美しさは素晴らしく、すべての日本人が一度は見るべきものと思っている。東北の旅館・ホテルの皆さんとの付き合いを深くしながら、東北の魅力を伝える商品づくりを進めたい」
【いなおか・けんじ】