【観光業界人インタビュー】宮古観光協会会長 澤田 克司氏


宮古観光協会会長 澤田 克司氏

震災2年半の復興状況

早く消したい復興の二字 9割は前向き思考で検討

 東日本大震災と津波で甚大な被害を被った三陸地方。三陸復興国立公園の中心に位置する岩手県宮古市も、例外ではない。被災から2年半を経た現在の復興状況を澤田克司・宮古観光協会会長に聞いた。

──旅館・ホテルや観光施設の復興状況は。

 「陸中海岸のリゾート旅館や観光関連施設は、ほとんどが震災と津波の被害を受けた。それら観光事業者を個々のレベルで捉えると、マイナス思考で復旧の遅れている施設もあるが、押し並べて言えば8割から9割の経営者は、前向きに頑張る姿勢を示している。例えば、宮古市内には25軒の旅館・ホテルがあり、震災の津波で17軒が被害を受けた。その中で3軒だけが後継者や再建資金などの問題で転廃業したが、ほかはすでに営業を再開している」

──三陸復興国立公園への期待感は。

 「私たちの地域の陸中海岸国立公園は5月24日、新たに『三陸復興国立公園(青森県種差海岸・階上岳地域を編入)』として指定された。名称に『復興』が加えられたことで、所管の環境省だけでなく、復興庁での予算化が今後の復興を進める上で、カギの一つといえるようになった」

 「そうした中、国立公園の中心である宮古市の浄土ケ浜については、津波で破壊された部分の復興が進んでいる。旧に復するだけでなくユニバーサルデザインによるバリアフリーなど、観光地として活力を蘇えさせる復興を、私は強調してきた。環境庁や関連事業者と10回以上も打ち合わせをし、バリアフリーに基づく遊歩道を10コースほど提案した。予算の関係で当面は2コースに絞られたが、5月から工事が始まり、7月20日には環境省、岩手県、宮古市の共催で三陸復興国立公園指定の記念イベントを開催。浄土ケ浜海岸歩道開通記念テープカットと奥浄土ケ浜までの渡り初めを行うに至った」

──復興へ着実に歩を進めているが、その先のビジョンはどうだろう。

 「災い転じて福とたとえるには、余りにもひどい災いだが、それでも環境省が三陸復興国立公園として復興に本腰を入れてもらえることは、極めて大きな意味がある。ただ、名称の中の『復興』の二文言は、1年でも早く外してほしい。できれば5年以内か遅くても10年以内には外してもらいたい。もっとも、復興の文字があるために国などの予算が付きやすいという一面もあるが」

 「いずれにしても、国は復興に向けた施策を講じてくれるが、それによって形づくられたものを、どのように活用していくかは、我われ民間に委ねられている。観光の誘客に向けたビジョンは、私たちの課題だ」

──復興と誘客を結ぶプロモーションはどうか。

 「8月30日に羽田空港で宮古市としての誘客プロモーションを行なったのを皮きりに、秋以降には本格化させたい。もちろん、県の観光協会などでは既定の予定もあることなので、足並みを揃えるのは少し先になるかもしれない」

 「観光協会長として悩ましいのは、悲惨な震災被害であることは事実だが、それをどこまで引きずるのかという問題がある。観光の誘客を考えたとき、『安心で安全な国立公園に来てほしい』というのが、被災した地域に共通する思いであり、それを理念に据えて前向きの観光プロモーションを展開していく。少なくとも来年はそうした思いで、三陸地域の自治体や観光協会が、足並みをそろえた展開に期待したい」

──観光は地域とのコンセンサスが欠かせない。三陸復興国立公園はどうか。

 「三陸復興国立公園(メモ参照)は、青森県の一部を含むエリアで指定されたが、将来的な構想としては宮城県の気仙沼県立公園、南三陸金華山国定公園、硯上山万石浦県立公園まで再編に含まれる。そうなると、安全と安心で勝負をしてきた国立公園内に、原発エリアを包含することになる。これに対しては、十分な議論とコンセンサスの醸成が必要だと受けとめている」

 「また、再編で将来的に包含が予定される地域の中には、かつて陸中海岸国立公園の指定に奔走していた時代、観光にまったく無理解だった地域もある。議論やコンセンサス醸成に対して、地域エゴという人間もいるが、この地域に住む人々が国立公園を守り続けてきた厳然とした事実もあることを忘れてほしくない

※旧陸中海岸国立公園は、岩手県の宮古市を中心に南は釜石市の手前、北は久慈市に至る180キロほどの海岸線。1955年に指定された。

【さわだ・かつじ】

宮古観光協会会長 澤田 克司氏

 
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