【観光学へのナビゲーター 43】旅行会社の存在価値の再確認を 愛国学園大学 教授 羽田利久


 消費者に対して各所で実施されているアンケートをみると、新型コロナウイルスが終息した後に行ないたい事として、国内旅行が上位に挙げられている。やはり人は旅がしたいのだ。しかしながら終息の定義は容易ではなく、ワクチン接種が普及したとしても、当分の間は感染リスクという不安を抱えたまま、旅に出ることになるだろう。

 我々は旅をする際、新たに感染リスク回避という負担を強いられることになった。旅に対する期待感と、旅に伴う負担の比較をした結果、負担の方が大きければ旅への意欲は減退してしまう。そこでこの負担を解消することが、今後の旅行会社に求められる役割なのではないか。必要な情報を集めて精査し、不便を解消するために的確な形にして提供するのである。旅行者の負担となる煩わしい部分を代行して実施すること、旅にまつわるあらゆる苦労を軽減させることが、旅行会社の元々の役目であったはずである。今は旅への不安感や煩わしさが旅行者にとって極限の状態にあると言え、この状況こそ旅行会社の役割が発揮されるべき時なのではないか。

 日本の旅行業の原形として知られているのが、参拝者の手助けをしていた御師の存在である。茨城県の鹿島神宮では、新型コロナウイルスの影響により参拝が困難な方のために、御師による代参祈祷を復活させた。鹿島御師の子孫の方が希望者の代わりに参拝を行ない、その様子をオンライン上の動画で確認できるというものである。鹿島神宮によれば、この参拝は「新しい生活様式に合わせつつも、古式に由来する御祈祷様式」とあり、神道の本義に基づいたオンラインツアーにも見える。しかしそれはあくまで表面的な捉え方であり、御師復活の背景には、信者の願いを叶えるという思いと、信者の不安に寄り添う気持ちが感じられる。

 移動のための手配ではなく、代理参拝という形ではあるが、旅行業の先駆けともいわれる御師がこの状況下で復活をしたことは、旅行業の本来の役目の重要性を示唆しているのではないか。そしてその役目を明らかにするために、旅行会社の存在価値を再確認する必要があると考える。

 筆者が運営に関わっている旅行産業経営塾の受講生は、旅行業界の現状を打開したいと真剣に思う方々ばかりであり、中にはこの状況下で新たに旅行会社を設立しようとされている方もいる。私も旅行産業は人々にとって必要不可欠な産業であるという事を、研究を通じて引き続き強く訴えていきたい。

 
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