【観光学へのナビゲーター 41】オーバーツーリズムと日常、非日常 日本国際観光学会オーバーツーリズム研究部会・ジャルパック 永井孝充

  • 2021年6月27日

永井氏

 オーバーツーリズムと一言で言っても、日帰り客を主とした観光地と、多くの方が宿泊する観光地では観光客の行動パターンが異なるため、発生する現象は異なる。また同じ地域に住んでいても、観光客が利用する商店主や観光産業に従事する人と、観光に関わらない業種で働く人ではオーバーと感じる基準は異なるだろう。批判を恐れずに述べるならば、観光客から恩恵を受ける人はそうでない人よりも、オーバーツーリズムの問題意識は甘くなると考えてもいいかもしれない。

 コロナ禍以前は、一部を除いて観光地は一人でも多くと、観光客誘致を目指した。その結果、人気の観光スポットはオーバーキャパシティの状態になり、観光客からみれば入場規制や入場待ちなど、ゆっくり滞在できない事象が発生した。一方、あふれかえる人の波、交通渋滞、騒音、マナー欠如など住民生活に悪影響をもたらし、いわゆる観光公害が顕在化した。

 これらへの対応として、観光客の集中やマナー欠如による住民生活、住環境の悪化にどう対応すべきかといった広義のホスト側の課題解決がまず求められた。その一方、観光客数のコントロールを試みた事例もあった。このように、訪れる者と住む者とのバランスをいかに保つのかが主要テーマだったといえる。

 この両者の関係を考える時、観光客が非日常性を求めて訪れる場所は、そこに住む人にとっては日常の場所であるというパラドックスが生じる。それは観光の多様化に伴い、観光者のまなざしがその地のくらしに向けられるようになっていることが大きく関係している。

 さて「日常」「非日常」は誰にとってのそれであるのか。

 普段の生活とは異なる空間に赴き時間を過ごすことは、「日常」からは離れているといえる。ただこの「日常」を普段の生活とすると、仕事や勉学、あるいは通勤や通学などは「日常」ともいえる。その意味で、海外を飛び回っているビジネスパーソンにとっての海外旅行は、もはや「日常」である。
観光客が初めて訪れる場所でそぞろ歩きを楽しむことは「非日常」であろう。ところがそこでの飲食場所が地元の名物料理店ではなく、いつもと同じチェーン店だった場合、そこには「日常」が入り込んできている。また立ち寄るお店が観光客にとって珍しい非日常場面であっても、日頃そこで買い物をしている住民にとっては日常場面そのものである。今やスマートフォンなしには暮せない。ところかまわずメールやLineなどで家族や友人、勤務先と連絡を取り合うのは、観光客にとって「非日常」場面での「日常」行動である。そう考えると、これまで観光客が「非日常」と考えていた場所、そして、そこに暮らす人が「日常」生活場面と思っていた場所は、「日常」でもなく、「非日常」でもない。いわばそれぞれの日常と異なる「異日常」といった言葉がふさわしいのかもしれない。

 そのように視点を変えることで、両者のバランスを保つ道が見えそうな気がする。

 
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