【観光学へのナビゲーター 34】観光によるまちづくりとオーバーツーリズム 日本国際観光学会オーバーツーリズム研究部会・杏林大学准教授 古本泰之

  • 2020年8月28日

古本准教授

 日本国際観光学会オーバーツーリズム研究部会では、オーバーツーリズムが地域にもたらす課題を、人が空間的・時間的に集中することで生じる混雑などの「量的側面」と、観光客が増え続ける過程で地域が意図しない形で「負の姿」に変容するという「質的側面」の2つから捉えて研究活動を行っている。

 このうち「量的側面」については、大規模な感染症の発生という従来懸念されていた観光の弱点を突かれたことで、特にインバウンドに関しては過去の話となってしまった。観光客の来訪が地域にこれまでもたらしてきた効果の大きさを考えれば、観光客減の影響を直接受ける関連産業に対して手厚い支援がもたらされることが第一であると考える。

 ただ、個人としてみた場合、我々は移動や対面による交流を前提とした楽しみを享受できないことの苦しさを通じて、改めて自由な観光行動の貴重さを感じているのではないだろうか。そのことを踏まえると、ある程度の人的往来が可能になった時点で、市場から「安・近・短」となる国内地域において観光客の一時的な量的拡大が起きる可能性がある。本研究部会が主な調査地としている埼玉県川越市・神奈川県鎌倉市もその対象となり得る。ただそこでは、例えば「衛生面での安心」など、かつてとは異なった観光へのニーズが生じることが予想され、それに応じるべく観光の復興に向けた地域全体の変革が求められるだろう。

 そのような状況を迎える上では、オーバーツーリズム発生時に生じた「質的側面」の課題から地域の観光の在り方を見直す場を構築することを提案したい。これまでの本研究部会員の提言において、経済効果への偏重による「地域らしさの喪失」が課題として指摘されている。また、自らの街が観光客の流入によって意図しない方向に変容していくことへの地域住民からの懸念も示されており、観光まちづくりを考える上で重要な課題となっている。ただ同時に、本研究部会が行ったヒアリング調査においては、オーバーツーリズムがもたらす「負の姿」とされる一般的状況を、「負」として捉えるかどうかについて、対象者によって認識のばらつきが見られた。地域らしさを考える上では、観光客の増加に対応した新規出店などを通じて多様な活動主体が地域内に流入してきた状況を踏まえ、これまでの組織の枠組みを超えた認識共有の場が必要ではないだろうか。

 オンラインとオフラインが交錯するこれからの時代において、地域内の活動主体が声を掛け合い、ICTを活用して「連携の在り方」や「地域全体で観光をどう捉えるのか」といったテーマでこれまでの枠組みを超えたつながりを持つことは、人々の「楽しみのための移動」が再度本格化したときに新たな観光地の形を生み出す原動力になると考える。


古本准教授

 
 
 
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