【観光学へのナビゲーター 32】オーバーツーリズムに関する各ステークホルダーの認識 日本国際観光学会オーバーツーリズム研究部会・国際観光サービスセンター 矢田部 暁


矢田部氏

 埼玉県川越市は都心からのアクセスも良く、古い町並みを散策する観光客が多く訪れる観光地として賑わっている。近年は外国人観光客も多く訪れており、観光客は増加傾向にある。その川越において、観光に関して住民や観光関連産業の方々がどのような課題を認識しているのかを把握するため、日本国際観光学会オーバーツーリズム研究部会においてアンケート調査を実施した。

 アンケート調査は現在も引き続き行っているが、3月末時点で88名からの回答を得た。回答者は川越市内在住者が75%を占め、観光関連産業従事者と非従事者の割合は6:4とおおよそ均衡がとれている。

 「川越が観光地として有名になったことについて感じる点」についての設問(複数回答可)においては、「川越のイメージアップにつながる」、「町が活気づいた」、「多くの人が来ることで経済が潤う」、といったポジティブな回答が半数ほどにのぼった。一方で、「住民には迷惑と思えることが起きている」は4割を超え、住民が直接的に迷惑を感じている状況が窺える。そして、最も高い割合となったのは、「観光客向けのお店が増えた」が6割近くにのぼった。およそ3割の回答があった「川越らしさが失われつつある」とともに、観光客の増加によって川越という町が変化していることを感じている人が多いことがわかった。観光がもたらすプラス面の評価と同時にマイナス面の評価も見事に表現されたと言える。

 これらの感じ方をさらに踏み込み、「川越の観光地としての現状の課題」と「今後について」の設問では、現状の課題として最も高く認識されたのは、観光客のマナーに関してであった。「観光客による住宅地や公共の場へのゴミ投棄」、「観光客が食べ歩きすることによる周辺環境や住民への悪影響」がいずれも8割近い回答者によって指摘され、特に後者については、約4割が今後も悪化するだろうとみている。一方、「全国チェーン店等の増加による川越らしさの喪失」、「どこにでもあるようなお店が増えた」がいずれも7割を超えた。前者が今後さらにその傾向が強くなるだろうと4割弱がみている。観光客が増加している状況において、住民の生活に密着したお店が減少していることが課題として認識されていることがわかった。これらもいわば「らしさの喪失」につながるものである。

 これらのことから、川越は、特定時間の特定空間を除いては量的にはまだオーバーツーリズムとは言えないだろう。住民も観光関連の事業者も他の観光地に見られるオーバーツーリズムに関わる種々の現象との共通性を認識し、観光地としての質的変化の予兆を的確に感じ取っていると言える。これらの課題を各ステークホルダー間で共有し、観光客への啓発や事業者間でのルール作りなど、予防的な対応策を講じていくことが重要ではないだろうか。

 オーバーツーリズム研究部会においては、各観光地における観光客の量的変化が、観光地としての質的な変化につながる場合があることを危惧している。そして、このアンケート結果から浮かび上がってきた、「住民生活に影響する観光客のマナー」の問題、人々が長い歴史の中で積み上げてきた「その地らしさ」の持続性を当面の課題と捉えている。


矢田部氏

 
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