【観光学へのナビゲーター 30】観光客の視点からオーバーツーリズムを考える~観光地川越を歩きながら~ ジャルパック・日本国際観光学会オーバーツーリズム研究部会 永井孝充


永井氏

 ご存じのように川越は東京近郊の街歩きの人気スポットである。

 行政エリアとしての川越市は人口約35万人、埼玉県ではさいたま市、川口市に次いで人口が多い。東京などへ通勤や通学する人が多く住む、いわゆるベッドタウンでもある。

 さて、年間730万人を超える観光客は川越にどんなイメージを持つのだろうか。ガイドブックやヤフー、グーグルなどの検索でも、時の鐘・蔵造の古い街並みが前面に出てくる。市域のごく一部が川越市全体を表象しているといえるだろう。事実、昨年川越を訪れた時には、観光客と思しき人の姿も、川越一番街、時の鐘のあたりが、喜多院や川越城などよりも明らかに多かった。加えて昼間は多くの観光客が訪れ、中国語、韓国語、英語など外国語の会話も多く聞こえていた。しかし日が傾いたころには、観光客らしき人はほとんど見かけなくなり、昼間の喧騒がうそのように静かになる。

 川越は、空間、時間によって観光客の往来に極端な違いが見られる観光地である。

 

①川越の魅力度と滞在時間

・川越は周辺からのアクセスもよく、都心に宿泊する訪日観光客のショートトリップの目的地でもある。もちろん日本人にとっても古い街並みは魅力的に映る。ただし、1箇所に長時間滞在、入場するといった施設は少ない。

・その結果、街歩き観光客が昼に集中し、観光客相手の店も昼中心の営業となる。街そのものが昼の賑わいとは打って変わって、夜は静かな雰囲気となる。

・食事処や休憩場所の軒数や座席数は多くない。寺社仏閣や美術館、博物館であれば、そもそも飲食をしながら拝観や見学はできないが、川越観光の特徴である街並み歩きが、食べ歩きの増加につながっていると考えられる。多く見られる食べ歩き商品を扱うお店の前は長蛇の列である。一歩裏に入った通りや観光スポットを結ぶルートには住宅も多く、騒音やごみのポイ捨てなどの問題につながるように思われた。

②観光スポット間、交通結節点との位置関係

・JR、西武鉄道、東武鉄道の駅とそれら観光スポットとの距離は、歩くにはやや遠いかなという距離。中心の観光スポット間は歩くことができるが、途中は住宅地が続くなど、これまた微妙な感じ。観光客は狭い地域に集中する。曜日や時間によっては、公共交通、観光バス、乗用車、自転車、観光客が混在し、交通渋滞も。

③観光客の増加に影響を受ける人、受けない人

・観光客相手の商売をしている人にとっては、観光客の増加は期待すべきこと。一方、観光客の集中するエリアに隣接する地域の住民など、むしろ悪影響が考えられる。観光地と離れた多くの市民には、こうしたまち中の状況も他人事かもしれない。

 

 観光客の視点からの課題を何点か取り上げた。これらはおそらく観光客の増加を期待し、さまざまな試みを展開してきた他の多くの観光地にも共通するのではないだろうか。何度でも訪れたくなる魅力的な川越の街並みを歩きながら、しばしオーバーツーリズムを考えるよい経験ができたことは確かである。

永井氏

 

 
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