【観光学へのナビゲーター 29】オーバーツーリズムを考える視座として 立教大学観光研究所・杏林大学・日本国際観光学会オーバーツーリズム研究部会代表 井上晶子

  • 2020年7月14日

井上氏

 新型コロナウィルス感染症発生以前、各メディアを賑わしていたのは、観光地のオーバーツーリズムの姿であった。コロナの蔓延と同時に、人の姿が消えた観光地から悲鳴が聞こえてくる。人の動きがもたらす経済効果の大きさと同時に、人の動きに左右される「観光」の脆さを痛感している。

 オーバーツーリズムの課題には、人が空間的、時間的に集中することで生じる混雑などの問題と、観光客が増え続ける過程で変化する観光地の“負の姿”がある。問題は後者である。

 観光の多様化に伴い、まち歩き観光に代表されるように、暮らしの日常場面が観光客の楽しみの非日常場面となり、観光地は日常と非日常がクロスする場となっている。加えて、インバウンド政策の効果により多様な文化がクロスする場ともなった。習慣、価値観、行動パターンなどの違いが予測し得ない事態を生み出すこの場所では、行政、住民、観光事業者、観光客すべてが利と同時に負をも抱えるステークホルダーとなる。

 オーバーツーリズム現象と共に語られる「観光公害」の言葉は、主に自然破壊、落書き、ゴミ問題等による環境面への負の影響の意味合いで以前より使われていた。対して、近年の課題は、従来の観光公害のみならず、住民生活に関わる社会面での影響が大きくなっている点である。そして、影響は文化面にも渡っていることが観光客の行動から見えてきた。長年にわたり、観光客の動向を観察していると、地域の人たちが積み重ね、誇りとし、伝えたいと思う、まちの魅力や成り立ちへの関心が希薄な観光客の姿が目に付く。本来「図」として浮かび上がるべきまちの個性としての数々の表象が、単なる背景・「地」なっているかの感さえある。

 人々の暮らしに関係していた商業活動は観光客のためのものに変化し、外資の増加と共に、観光客が主人公となって演じる舞台は、人目を惹くが均一化された舞台へと変化する。メディアがその舞台を映し出し、人々は同じ演技をすべくやってくる。

 インバウンドの急増と相前後して登場したオーバーツーリズムの諸問題は、とかく外国人観光客の行動、特にマナーと関連して語られることが多いが、これらは非日常を満喫したい観光客総てに起因している。多様な観光客が増えることは多様な課題につながる。

 今後、各観光地がコロナ感染症による打撃からの回復のために打ち出さすだろう観光客誘致策が、数の増加に視点が置かれた経済偏重のものであったならば。人々が、不安と抑制された日常からの解放を求め、まずは近場から恐る恐る、そして次には安心できる場所へとどっと向かうならば。訪れる側、迎える側に生じる現象はコロナ蔓延以前と変わるのだろうか。

 私たちは、日本国際観光学会において、オーバーツーリズムの課題に取り組んでいるが、商店街や住民の協力を得て実施したアンケート調査からは、観光は地域に多くの力をもたらすと同時に経済重視に偏ると失うものも多いことが見えてきた。

 観光の危うさが露呈された今だからこそ、「量の変化がもたらす質の変化」の視点から、各ステークホルダーが“観光”とそれにかかわる“主体”としての自らをじっくりと考える契機としたい。すべてのステークホルダーが共存する魅力ある場所であり続けるために。

井上氏

 
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