【観光学へのナビゲーター 28】知的財産権は不要か? 日本国際観光学会会員・東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程 阿部真也

  • 2020年7月9日

阿部氏

 観光関連業で肖像権や著作権が邪魔で仕事が進まない。例えば旅行のパンフレット作成でいちいち様々なチェックが必要となって迷惑だ、という声を希に聞く。

 観光業界に限らず、知的財産権は法制度として不要だという意見がある。観光業界の方も、やれ肖像権だ、著作権だ、擬似的著作権とも言われる配慮が必要な情報に付属する権利らしきもの、不正競争の禁止だ、景表法だ、それに旅行業法による行政規制、加えて独占禁止法も加わって、とてもやりにくい、せめて知的財産権関係だけでも無くなってもらえないか?というのが偽りならざる本音では無いだろうか。

 そこで、思考実験としてそれらが消えた世界を考えてみよう。これで、例えば、旅行パンフレットの権利関係に悩むことは無い。何でも自由に使える以上、同業者のパンフレットを使っても咎められない。とここで気がつくはずである。仮に自分が手間暇かけ旅行パンフレットを作成する。それが好評であれば、同業他社が、旅行業者名だけを変えて同じ旅行パンフレットを使われてしまう。そうなれば、手間暇かけるのはもったいない。ということは誰かが作ったパンフレットを真似する方が早いので自分でパンフレットを作成はやめようと。しかし、他社も同じことを考える。そうすると、誰かが先行するほかないが、確実にその先行者は損をしてしまう。勿論、これはあまりに単純化した例である。だが、知的財産保護の必要性はこのような単純な思考実験からもわかるのでは無いか。

 知的財産権があるとこれと反対のことが起こる。技術特許の世界では、ある技術について特許出願した上で、これを標準化して開放する、という方法がある。標準化するに当たっては、独占禁止法との関係があるので、FRAND(フランド)宣言という、無差別ライセンス宣言をする。これはこの特許を誰にでも公平なライセンス料金を支払えば利用できますよという宣言で、これにより独占禁止法を回避しつつ、ある業界で標準的に使われる技術特許を持つことができる。先行して素晴らしい技術を開発した者は業界に誰でもその技術を使用させるが、その対価としてライセンス料金を得られるということである。これにより先行技術開発者の労力に報いつつ、業界の発展にも資することができるわけである。

 それは、技術の世界だけと思われるかもしれないが、例えばいきなりステーキの特許(特許5946491号)等のようにビジネス特許といわれる方法の特許がある。ある手順(方法)を特許化するというもので、観光分野では、逆オークション特許(特許4803852号)等がある。なお、技術系も多いが、特許情報プラットフォームでキーワード「観光」と入力すると特許・実用新案で2323、意匠114件もヒットする(2020年5月6日現在)。今後はデジタル技術と観光の融合も進むと思われ、このような特許も参考にしながら、新しい観光のかたちを考案して、それを業界全体で新しい観光として標準化しつつ、それを考案した者へ特許とライセンス料という報酬で報いるかたちをとることが観光業全体の発展にも資するのでは無いかと考える。

阿部氏

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