2003年にVisit Japan Campaign構想が打ち出され、その10年後の2013年に2020年オリ・パラ東京開催が決まった。そして今開催まで1年を切った。当時筆者は観光系専門学校の教壇に立っていた。発表の翌日、当時の学生達に「日本のホテル業界は大きく変わる」と声を大にして話していたのを覚えている。しかし今日に至り、ここまで大きく様変わりするとは想定外であった。
もちろん、オリ・パラ開催だけが理由ではない。開催決定から今日までに、「富士山の文化遺産登録」「和食の無形文化遺産登録」「統合型リゾートの誘致活動」「万博誘致の成功」など、観光資源として有効となる材料ができた。これらが複合的・相互的に作用しホテルの開業ラッシュの起因となったと考える。
2019年開業または開業予定ホテル数が102ホテル、2020年は187ホテルとオリ・パラ開催年の方が圧倒的に多い。また大手外資系ホテルグループによるラグジュアリーホテルの開業予定数は2019年に9ホテル、2020年以降は37ホテルである。そして開業予定地は東京・首都圏、大阪・関西圏、北海道や沖縄などのリゾート圏に目立つ。また海岸などのウォーターフロントや、人里離れた山間部の「さらに奥」といった未開拓地区での開業も目立つ。同時に宿泊特化型の「ビジネスホテル」の開業も増加傾向にあり、ターミナル駅周辺とその沿線3駅以内、また「駅から徒歩10分圏内」というホテルが多く見受けられる。そして付帯設備(大浴場やフリーチョイスのオプション)が完備されていることもポイントである。
しかし、その一方で、これらの新規ホテルがその「地域と共生できるか」という点では多少なりとも疑問を抱く。都内に「都市にあるホテル=シティホテル」ではなく「ホテルを中心に町を創世する=ホテルシティ」というコンセプトで事業を展開し成功しているホテルがある。その一方、地域がホテルに依存していたが故に、ホテルの廃業と同時に地域の経済活動が衰退した地方都市の事例もある。大型ショッピングモールの進出に伴い、その地域の商店街が衰退した事例と同様で、危惧すべき点であると考える。
観光資源が豊富なこの国において、「観光立国政策」が根付き、発展してきたことは大変喜ばしいことだ。しかし、ホテル開業に伴う地域社会の隆盛もしくは衰退は、ホテルが担う地域での役割をより明確に提示することが大切であり、またこの国が観光立国として確固たる地位を確立する為の大きな鍵になるであろう。
武蔵丘短期大学健康生活学科 准教授 植松大介氏