【観光の学校特集】信州の若者を地元観光業に 松本大学


尻無浜教授(左)と益山教授

 松本大学は、長野県松本市の私立大学。昨年、創立120周年を迎えた伝統校だ。「地域の若者を率先して受け入れ、地域社会の発展に寄与できる人材を育成する」教育活動を続けている。

 長野県といえば、日本有数の温泉観光地。環境省の発表による温泉地数では1位の北海道が244、2位の長野県が215、3位の新潟県が145となっている。旅館、ホテル、スキー場も多い。また松本市の中心部には、国宝「松本城」、国宝指定がこのほど決まった「旧開智学校校舎」など、インバウンド客にも人気の観光スポットがある。

 観光業が盛んな長野県に、地域の学生に観光を学ばせ、地域の観光業界に就職させることを目的としている4年制大学が存在する意義は大きい。

 商業高校をルーツにもつ松本大学は、2002年4月に総合経営学部総合経営学科を設置して大学として開学。06年4月、総合経営学部を改組して、総合経営学科と観光ホスピタリティ学科の2学科制とした。

 観光ホスピタリティ学科では、「地域づくり」「観光」「福祉」をキーワードに地域に貢献できる人材を育成している。卒業生の就職先では、宿泊業、旅行業、交通運輸業と並んで、医療・福祉関係が多い。ホスピタリティとホスピタル、ホテルは同じラテン語に語源を持つ言葉だそうだが、大学の観光系学部学科のカリキュラムは極めて特徴的だ。

 学科長の尻無浜(しりなしはま)博幸教授は次のように語る。「地域づくり、観光、福祉の3分野を関連して学べるのが観光ホスピタリティ学科の特色。たとえば『バリアフリー観光』や『コミュニティビジネス』などの科目はその一環。現代社会はさまざまな問題が複雑に絡み合っているため、解決には幅広い知識と視野、考え方が不可欠となる。豊富な現場体験も含めた大学での学びが卒業後に活躍する力となる」。宿泊施設、交通機関、観光施設は、ハード面でのバリアフリー対応を迫られる時代に入ったが、それを運用面で支える人材の教育を実に06年から行ってきたのが同学科と言える。

 尻無浜教授は、これまでに数度、学科生と海外諸国を訪れ、バリアフリー旅行者のための環境調査を実施。「アクセシブル・ツーリズムガイドブックin台北(11年)」「同in釜山(14年)」「同inダナン(19年)」を松本大学出版会から刊行している。障害者雇用、国際開発、地域ケアを専門分野に持ち、同教授の福祉者としてのまなざしがうかがえる。

 学科専門分野カリキュラムは三つ。「観光マネジメント」では、信州の恵まれた環境を生かし、観光ビジネスや国際観光、エコツーリズムなどの理論と実践を通して、持続可能な観光まちづくりを学ぶ。さらに、もてなす理論や技術を学び、ホスピタリティマインドを養う。旅行業の国家資格である、総合・国内旅行業務取扱管理者の資格取得も目指す。

 「地域文化マーケティング」では、地域の課題を見つけ出し、その解決に必要な知識や能力を身に付けた、地域づくりやまちづくりの専門家を養成する。地域の自然や物産、文化を生かした商品開発など、地域での具体的な実践を通じて学ぶことを基本としている。また、地域行政や住民自治など地域運営の仕組みについても学ぶ。学芸員・防災士の資格取得も目指す。

 「福祉まちづくり」では、福祉の専門職である社会福祉士の資格取得を目指す。障がい者の仕事づくりや福祉ビジネス、地域福祉など、次世代の新しい福祉について。理論と実践両面から学ぶ。また、あらゆる人たちが幸せに生きていくための『ユニバーサルデザイン』や地域のバリアフリーについても学ぶ。

 ホスピタリティマーケティングが専門の益山代利子教授は、「『地域づくり』『観光』『福祉』に共通するのは、『幸せな地域づくりへの貢献』という理念。地域の方との関わり方やコミュニケーション力などを養い、専門的な知識と実践的な経験を生かして、地域で活躍できる人材を育成する」と話す。

 学芸員の資格が取得可能なのは、「長野県は人口あたりの美術館数、博物館数が共に日本一で、実習のフィールドに恵まれている」(益山教授)から。防災士資格を取得可能にしたのは「防災に強い町になることは、観光客の受け入れ態勢を強化することにつながる」(同)からだ。

 ヒューストン大学コンラッドヒルトンカレッジで学び、香港理工大学ホテル観光経営学科での教員経験もある益山教授は、これまでに「シンガポールの観光系専門学校生との文化交流会」「タイの学生との国際交流」「ASEAN5カ国の大学生と国際交流イベント」などを実施。インバウンド観光客受け入れに役立つ国際コミュニケーション能力の醸成にも注力している。

 就職では、地域密着型大学・学科として、地元企業に確実に卒業生を送り出している。18年度の就職内定率は、卒業者数88人の98.8%。過去5年間の主な就職先は、アルピコ交通、JR東日本、池の平ホテル&リゾーツ、クア・アンド・ホテル、五千尺、RAKO華乃井ホテル、東急リゾートサービス、藤屋、明神館、アステップ信州、エイチ・アイ・エス、エプソン日新トラベルソリューションズ、東武トップツアーズなどとなっている。

国宝 松本城

尻無浜教授(左)と益山教授

松本大学/松本大学松商短期大学部

総合経営学部 観光ホスピタリティ学科 – 松本大学

 


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