【航空会社系旅行会社トップ対談】ジャルパック × ANAセールス


飛躍を誓う両社長

ダイナミックパッケージ好調、強み生かして飛躍誓う

 迫る東京オリンピック・パラリンピックの開催や急増し続ける訪日客、求められるICT、AI化、国内外OTAの躍進など、新たな局面を迎えている観光業界。この激動ともいえる環境下、どう先を見据えながらかじを切るのか。航空会社系旅行会社2社のトップに集まっていただき、語ってもらった。(東京のパレスホテルで、聞き手は本社・長木利通)

「ANAトラベラーズ創業年」

ANAセールス 社長 宮川純一郎氏

 

「種が芽を出しすくすく育つ年」

ジャルパック 社長 江利川宗光氏

 

 ――2019年を振り返っていただきたい。

 江利川 業界の先輩からお願いしたい。(一同笑)

 宮川 国内、海外ともに前年を上回って着地できそうだ。18年は、飛行機のエンジントラブルや刷新したシステムの不具合、災害などマイナス要因が多かった。19年はシステムの不具合が解消し、期待していた効果が出始めたほか、ゴールデンウイーク10連休で旅行需要を獲得できた。また、インターネットでのダイナミックパッケージ(DP)の販売が好調で、リアル旅行商品の落ち込みをカバーした。DPは、国内でもリアル商品より売り上げは上回っている。5月にA380が就航したハワイは、生産量、需要はともに伸び、海外旅行全体を引っ張っている。エアライン事業はビジネスの勢いに少し陰りが見えるが、来年は羽田の国際線拡大もあり期待できる。ただ、増収増益とはいえ、計画値には全然足りていない。ビジネスモデル転換のスピードが速い中、リアル旅行商品の落ち込みは想像以上に大きい。これをどう埋めていくかは課題である。

 江利川 19年は「反転の年」を訴えてきた。二つの意味があり、一つは過去3年続く減益からのV字回復、もう一つは旅行業界が大きく変動する中での備えだ。また、19年はジャルパックのブランド55周年に当たり、転換期として多くの挑戦をした。中でも一番力を入れたのは、社内での改革で三つの取り組みを行った。一つ目は「社員が当事者意識を持ち、会社全体を引っ張る意欲を持つこと」。全体を見ながら自分たちができることを考え、最後までやりきる意識を植え付けた。今では、リーダーは自主勉協会を開き、若手もリーダーになりたいと手を挙げるようになった。二つ目は「社員が生き生きと働き、会社とともに成長する環境づくり」。働き方改革、健康経営に力を入れ、社員が自律的、自発的に社内活動ができるようにした。三つ目は「社員の意識改革」。私は常に「自分たちをホールセラーと定義づけることをやめろ」と言っている。われわれはリテールもしている。ホールセラーを仲卸や問屋と定義すると、ITが進むなど産業構造が変化すると、中間的な産業は生き残れない。企画・造成だけでなく売ることにも、「責任持つ」という意識が必要だ。内部基盤を作ってきた結果、JCSI顧客満足度やNTTコムオンラインNPSベンチマーク調査総合型旅行会社部門で1位、JATAの働き方・休み方部門で会長賞などをいただくことにもつながった。19年の業績は、トップラインは胸を張れないが、利益は計画値を上回り、増益を達成できそうだ。海外のリアル旅行商品が苦戦するも、国内はDP中心にパッケージ商品も踏ん張っている。社員の意識が改善され、全社のコストコントロールもできている。商品に関しては、一番の売りであるハワイが、火山噴火以降落ち込んでいたが、コナ線を利用したハワイ島商品も戻ってきている。これから巻き返していく。

 

 ――OTAが躍進している。異業種も参入している現状をどう見ているか。

 江利川 新勢力の台頭、躍進は非常に脅威だ。ただ、お客さまやマーケットが決める流れを否定しても仕方ない。今は三つのことを思っている。一つは、謙虚に新たなプレイヤーから学ぶこと。ウェブ、オンライン販売を強化しているが、彼らも参考にさせてもらう。二つ目は、新たにパートナーシップを結べるところとは結んでいきたい。三つ目は、付加価値を付けて差別化すること。ウェブやDPであっても、われわれならではの経験や視点は必ず生かせ、活路ともなるはずだ。

 宮川 昔から旅行代理店業は机と電話、資格さえあれば誰でも始められるものといわれ、参入障壁は低い。新たなプレイヤーの参入には危機感を持っている。特に、グーグルなど情報のプラットフォームをすでに持つ企業が本気で参入すると、市場はより激化するだろう。彼らは、情報、地図、口コミなどさまざまな機能をすでに装備している。今後の鍵は、自社が持つウェブの競争力をどう高めるかだ。エアラインの予約、検索など、ウェブのベースを最大限生かし、対応していく。一方、OTAが入ってこない世界もある。ダイレクト販売のチャネルでは、ウェブとコールセンター、直にお客さまにアプローチする外商の機能がある。旅行商品に付加価値を付けるほか、人間とテクノロジーを組み合わせるなど、一つずつ進めていく。

 

 ――グループ会社の中での立ち位置は。

 宮川 ジャルパックさんと異なり、ANAグループ内で航空券を販売するエアライン事業とトラベル事業の二つを行っている。エアライン事業は、グループ全体の航空券収入の約8割を担っている。それぞれ独立した事業部門だが、今後はシナジーを追求し、ANA経済圏を広げていく。購買行動から見ると、航空券を買うお客さまは、宿泊やアクティビティ、移動が付随する。航空券の購入は一部にしか過ぎず、以外をトラベルが担うべきだ。エアラインがビジネス需要を主としてきたビジネスモデルの中、もっとフィールドを広げなければならない。それなりにブランド力や知名度はある。グループの中でもトラベルを加える要素がないか探している。

 江利川 われわれはあくまでJALグループの旅行会社だが、グループ内ではユニークな存在だと言っている。唯一、お客さまの旅の始まりから終わりまで関与しているからだ。グループのリソースを最大限に生かしてオーケストレイティングし、顧客体験をまとめる指揮者の役割を担っている。航空券の販売を行うJALセールスだけではカバーできない部分で選ばれる存在にならなければならない。一方、主軸は観光だが、旅行の言葉にとらわれ、狭い世界の中で定義付けをしても広がりは生まれない。10月からJAL本体の客室本部の部長に非常勤取締役になってもらった。グループ全体の知見や連携などについて意見をもらっている。社外との関係を広げるのも大事だが、まずはグループ内のリソースを最大限活用できるようにしたい。

 

 ――大手旅行代理店が店舗を縮小するなど、販売店が減少傾向にある。販売店との今後の関係について、どう考えているのか。

 江利川 エアラインだけでなく、鉄道もそうだが、キャリアとしてどう動くかが一つ大きなところ。旅行会社の店舗も縮小、統合など複雑化している。われわれだけで決められないが、対面販売が全てなくなることはない。新たな仕組みの中でウィンウィンの付き合い方が良いが、JALや旅行会社店舗の状況を踏まえた上で戦略を考えていく。

 宮川 リアル旅行商品の売り上げが右肩下がりで、代理店チャネルでの売り上げも下がっているのは事実。ただ、ニーズはなくなることはない。来年度からは可変型の新しい航空運賃を取り入れることになる。これまでと異なり、1年前から直前まで需給に応じた最適な価格で販売し、ある意味マーケットの動きに即した商品が需要の掘り起こしにつながるかもしれない。また、ウェブの時代に即した旅行代理店を経由した商品づくりもしていく。旅行会社に寄り添うとともに、需要自体を大きくし、サポート、コンサルできる存在を目指していく。

 

 ――さまざまな業界でICTやAIの活用が進んでいる。商品開発や業務効率化など、今後どう活用していきたいか。

 宮川 販売でいうと、12月3日の商品発表会で新しい技術を使った手ぶら旅行、シェア旅などの商品を紹介した。グループ内にはイノベーションを取り扱う「デジタルデザインラボ」があり、ANAセールス内にも「イノベーション戦略課」を設け、商品開発や販売戦略を進めている。今後を考えると、新しい世代へのマーケットの開拓は必須だ。デジタルリテラシーが高い若い世代にどう訴求するかは課題だ。SNSの活用を含め、社内の若い世代の発想も生かしていく。社内で新規事業の募集「プロジェクトASX」を開始した。若者向けの事業など100以上の応募があり、現在検討している。業務面では、ITの活用で需要予測や分析などをロボット化、デジタル化している。10月からはウェブの予約導線にAIのチャットボットを取り入れた。今までコールセンターへお問い合わせいただく内容の多くが、ウェブの予約操作に関するもので、営業時間内でしか対応できないことに課題を感じていた。AIチャットボットが24時間対応することで、お客さまの利便性を向上できるのではないかと期待している。AIによる効率化で確保できた人員リソースは、人間にしかできない「お客さまに寄り添ったサービス」の領域へシフトさせ、OTAではまねできない体制を構築することで、よりブランド力や信頼感を上げていく。

 江利川 ウェブを含め、ユーザビリティ面で出遅れており、高めることに傾注している。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)のような業務効率化も図っている。われわれもグループ内でイノベーションを促進する部門や、顧客データをAIが分析してサービス、販売につなげるJALデジタルエクスペリエンスに参画し、新たな取り組みをしている。将来は、まだできていない旅行専門のアプリを作り、JALの航空座席はもちろん、MaaSなども含めたワンストップのプラットフォームができればと話している。

 

 ――昨今、業界内で必ず話題に上がる訪日や地方創生、IITについて対応は。

 江利川 訪日は、3年前からスタートしたが出遅れている。今後成長が見込まれる分野であり、積極的に取り組んでいく。今は生みの苦しみだが、今後はシステムを改良していく。現在5カ国ある対象国・地域を2年で18カ国まで拡大する。

 地方創生は、JALグループとして政策的なポリシーや施策があり、その中で一緒に取り組んでいる。総務部に広報業務も行う社会貢献グループを新設、札幌、沖縄、福岡にある仕入センターでは、JALの支社や支店と連携して地方創生に取り組む仕組みを作った。しっかりと対応していく。

 IITについては、世界の潮流がダイナミックプライシング化しており、支持される商品を提供していきたい。添乗員付きのヨーロッパ、ウェディングなど高付加価値商品の提供のほか、得意分野であるIT、ウェブ販売を強化していく。

 宮川 訪日は、BtoBの商売が中心だ。まずは各国の旅行会社に商品を売ってもらう。昨年、収益性を鑑みて少し規模を縮め、独立部門から国内へと吸収した。扱う商材は国内の宿泊素材であり、一緒にコントロールして効率性を高めることが狙いだ。今後はさまざまな分野の企業とパートナーシップを組んでAPI接続をするなどし、ある程度パートナーを選択と集中の中でやっていく。BtoCもこれからは力を入れる。多言語化やサポート体制を構築していく。

 地方創生は、ANAの中に観光アクション部がグループ内の取りまとめを行い、各地域の活性化に対するサポートや需要喚起を行っている。われわれは旅行事業で連携し、自治体などに向けて仕掛けていく。

 IITに関しては、エアラインでのレベニューマネジメントと同じだ。組み合わせが自由で柔軟性もあるため、商品、販売の在り方を見直すことで、今まで取りこぼしてきた需要を獲得できるかもしれない。

 

 ――2020年の事業展開について伺いたい。

 宮川 大きなエポックは「リブランド」だ。ANAトラベラーズというブランドを18年11月に発表。40年以上続いたスカイホリデー、ハローツアーというブランドは廃止し、国内外とも統一された新しいブランドのもとで全ての商品を展開する。価格固定型のパンフレットも、今後は違う形へと転換していく。一つ強力なコンテンツを挙げるならば、ツアーマイルだ。マイルが航空券だけでなく、旅行商品でも貯まるようになり、支払いでも自由に使えるようになる。このリブランドを本格的に展開していく。先日の発表会では認知度向上を目指し、女優の綾瀬はるかさんにも登壇いただき、特別CEOとしてPRしていただいた。インパクトは大きく、グループ全体でも前向きな機運が出ている。数字はふたを開けてみないと分からないが、年明けには中期戦略を発表できそうだ。旅行需要の活性化やANA経済圏を拡大する施策を打ち出すつもりだ。

 江利川 ANAグループさんも一緒だと思うが、首都圏発着枠拡大に伴って海外需要をどう伸ばし、立て直すかだ。これを機に立て直せないと21年以降じり貧になる。成田ももちろん、新路線はあるが、羽田からの路線拡張は、地方からの参加を含めたマーケットの拡大へとつながる。リアル旅行需要が減退する中、DPを中心としたウェブをどう伸ばすかも鍵を握る。とはいえ、リアルも大事だ。高付加価値型の商品を展開していく。アメリカと中国は供給が増えており、DPを含めしっかり売っていく。ハワイは、来年のマーケット全体の需給状況にもよるが、現地法人と共に新たな取り組みを仕掛けていく。かじ取りが問われる1年となる。

 

 ――最後に、来年を一言で言うと。

 宮川 「トラベラーズ創業年」だ。実際に去年から徐々に変えているが、過去を捨てて新たな形へと変わる。社員みんなが一つの旗印のもとまい進する。
 江利川 19年は内部の基盤固めに注力した。今後は土壌にまいた「種が全て芽を出しすくすくと育つ年」としたい。21年以降も変化ある業界の中で成長と収益を維持する会社にすると決意している。

 

飛躍を誓う両社長

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