
前回は、旅館の脱炭素に向けては、まず取り組む必要があるのは、どのようなエネルギー源を使用するにしても小さなエネルギーで運営できる姿を追求する考えが重要とお伝えしました。
そこで今回は、同じ料理でも調理モードの選び方で、高品質の料理が短時間に小さなエネルギーで調理できる例を紹介したいと思います。
最近の旅館では、どこでも見られるようになった調理機器にスチームコンベクションオーブン(コンビオーブン)という機器があります。スチームモードを利用して蒸し料理を行ったり、熱風モードでオーブン料理を調理したりすることができます。手の空いた時に調理して急速冷却して、冷蔵保管しておいた料理を再加熱するモードもありますので、朝食提供などに便利なマルチな調理機器です。
この機器の一番のセールスポイントであるコンビモードをうまく利用すると、調理時間が短くなり、しかも歩留まりよく料理を仕上げることができます。「そんなことよく知っているよ」という調理人の方も大勢いらっしゃいますが、このモードをうまく使いこなせていない方がいらっしゃるのも事実です。
例えば、冷蔵保管された60グラムのハンバーグ72個をスチームコンベクションオーブンで焼成する場合、コンビモードで調理すると12分で仕上げることが可能ですが、オーブンモードでは16分かかります。この事例はガスモデルでのデータですが、その場合のガス使用量も0・17立方メートルと0・19立方メートルとなり、エネルギー使用量はコンビモードの方を使用した方が少なくて済みます。これは電気モデルでも同様の結果が得られます。
コンビモードを使用することで、内部に肉汁を閉じ込めたジューシーな仕上がりになり、歩留まりよく調理が可能となり、料理のクオリティも向上します。
ただし、予熱の際にはコンビモードの方が蒸気を発生させるボイラーを起動させることから、予熱に時間がかかる傾向がありますが、調理を始める最初だけの問題でもあり、現実的にはそれほど問題になりません。
また、コンビモードを使用すると、冷凍状態からでも18分で調理可能です。解凍にかかる時間も節約できるだけでなく、見込み解凍の必要もなくなりますので、欠品や食品ロスも減らせます。
調理機器を上手に使うことは、エネルギー消費量を抑えるだけでなく、人手不足問題の解消にもつながることです。
(エコ・小委員会委員 NRTシステム代表取締役 畑治)