
湯口の工夫
浴槽清掃後の湯張に問題があります。以前調査した旅館で社長は温泉で湯張していると思っていましたが、清掃に立ち会うと担当者が温泉だと時間が掛かると言って給湯で湯張していました。
給湯で湯張をしている旅館は意外に多いのです。3メートル×6メートルで深さ60センチの浴槽には約10立方メートルの湯が入ります。水から1立方メートルの湯を沸かす油代は500円で、1回の湯張に5千円掛かります。週1回とすると年間52週で26万円掛かり、男女で52万円になります。水道水を使っていると倍の100万円掛かり、余分な費用を掛けて温泉の質を落としていることになります。
時間管理で夜間にためた温泉で湯張するのが大原則です。温泉旅館は温泉の力を最大限に生かして安心安全で良質な湯で運用するのが大切で、以下の取り組みをお勧めします。
(1)浴槽の湯張は温泉でする
(2)温泉を単独配管にする:浴槽の数が増えて湯量のバランスが崩れています。浴槽の大きさに見合った湯量に分配するには温泉を単独配管にして湯量が見えるようにする。
(3)湯口に仕切り板:湯口から出ている熱い湯は上面を流れてオーバーフローします。湯口に仕切り板を立ち下げ、底面に流すと熱い湯が全体に流れ、造り方によってはエアロゾルの拡散も防げます。
(4)浴槽にふたをする:露天風呂に夜間ふたをすると風が吹いたときの気化熱を防げます。毎日のことですからふたを容易に収納する工夫も大切です。
(5)間違った配管を直す:温泉、循環湯、給湯、給水と種類が多く、見えない箇所もあり配管は間違いが起きやすいです。また循環ポンプの容量が大きすぎないかチェックしましょう。
(6)温泉の上熱利用:温泉が熱ければ上熱を有効に利用できます。給湯補給水の配管に熱交換器を設置して水を予熱すると、あまり費用も掛からずに油代を節約できます。
「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録され、「温泉文化」もユネスコ無形文化遺産に登録する動きがあります。和食と温泉は日本の宿泊文化である旅館の両輪です。温泉はじっくり湯につかり、温まり、温泉成分を身に染み込ませる日本独自の入浴法で、その温泉の質を守るのは大切なことです。
湯守のいる旅館は、浴槽に丁寧に源泉を張り、フレッシュで良質な温泉を提供しています。お客さまは食事と温泉に敏感で、良質な温泉は「いい湯だね」と評価されるだけでなく、エネルギー使用量の削減にもつながります。調理長はいても温泉管理の専任者がいないのは問題で、温泉の管理にもっと関心を持ちましょう。
(エコ・小委員会委員長 温泉協会認定温泉名人 佐々山建築設計会長 佐々山茂)
湯口の工夫