
最近は旅館の大浴場でゆっくりできるのは良いのですが、利用客が少ないと施設効率やエネルギー効率が気になります。東北の大型旅館(100室)で入浴客数の実態調査をしたところ、混んでいるのは朝方2時間と夕方2時間の合計4時間程度で、稼働の良い日でも同時利用客は最大30人程度で脱衣かごも余っていました。
旅館のお風呂場は団体客が一度に入浴できるように湯縁を長く、水栓カランと脱衣かごも多い造りですが、最近の利用形態に合っていません。2000年ごろの日帰り温泉ブームに合わせて、個人客向けに貸し切り風呂や客室露天風呂を増やしましたが、温泉量の関係で多くは循環浴槽です。
日帰り温泉施設でレジオネラ属菌の大事故が起こったのはこの頃で、2000年12月には<旅館業における衛生管理要領>ができました。浴室設備は旅館が集客するのに効果がありますが、ハードの整備に合わせ清掃、設備メンテナンス、エネルギー管理の体制を整えることが必要です。
旅館には2000年以前の温泉設備も多く、レジオネラ属菌に対する衛生管理要領の基準を満たしていない施設が多いです。高付加価値化など質が問われる世の中、これからは安全安心で良質な温泉の提供が課題になります。
浴室設備を抜本的に改変するには費用が掛かるので、できることから始めたいと思います。温泉は毎時一定量が供給されますが、入浴のピークは朝夕の4時間程度で、夜間と清掃の8時間は利用せず、その他の12時間は入浴客も少ないです。少なくとも1日8時間は源泉槽にためることが可能で、細かく温泉の時間管理をすると見かけの温泉量を5割程度増やせます。ためた温泉は清掃後の湯張に使え、浴槽の容量と数が増えている現状ではエネルギーの有効利用と浴槽の泉質向上に有効です。
また浴槽の循環ろ過機はポンプが24時間回っている施設もあります。夜間も衛生管理上ポンプを止めるわけにはいかないのですが、入浴客数によってポンプの回転数をインバータ制御するのは合理的です。
管理要領では1時間に1回のろ過循環が求められていますが、大体基準より大きめのポンプが設置されているので時間によってポンプの回転数をインバータ制御すると電気使用量が大幅に下げられます。ポンプの回転数を半分にすると回転数の3乗に比例して減るので電気使用量は8分の1になります。温泉を時間管理で見かけの温泉量を増やし、循環ポンプをインバータ制御することは温泉の質の向上とエネルギー削減につながるので実行することをお勧めします。
(エコ・小委員会委員長 温泉協会認定温泉名人 佐々山建築設計会長・佐々山茂)