【竹内美樹の口福のおすそわけ200】標高1500メートルのディナー 竹内美樹


日本海の鯛

 山岳リゾート地として名高い、長野県松本市上高地は、手付かずの自然が残る美しい景勝地であることから、「特別名勝」と「特別天然記念物」の双方に指定されている。この二つの称号を持つのは、黒部峡谷と上高地のみ。そのまれな自然を守るため、マイカー規制が行われているのは有名だ。自家用車は通年全面通行禁止で、長野県側は沢渡(さわんど)、岐阜県側は平湯という所で、バスかタクシーに乗り換えて行くのである。

 加えて11月中旬から4月中旬まで、唯一の入り口である中ノ湯ゲートが閉められ、冬季閉鎖となる。

 そんな陸の孤島にも関わらず、年間150万人が訪れる上高地。年間と言っても、前述の閉鎖期を除く約7カ月間である。それだけ人々を引き付ける魅力があるということだ。筆者も日帰りでは訪れたことがあったが、この度初めて現地に宿泊する機会を得た。

 文豪芥川龍之介の小説にも登場する、上高地のシンボル「河童橋(かっぱばし)」。美しく澄んだ梓川に架かる木製の吊り橋で、上流から観れば背景に焼岳、下流から観ると向こうに明神岳と絶景が拝める人気スポットだ。そのたもとに佇む「上高地 ホテル白樺荘」は、1927年創業。今年90周年を迎えるにあたり、いずれも冬の休業期間中に、三期にわたる改装を行っている最中だ。

 前回は、従来の「旅館」というイメージから脱却を図り、「和のHOTEL」というコンセプトで、全55室中28室をリニューアル。

 客室のバリエーションを増やすことで、お客さまが選ぶ楽しさも増すというのが、同館鳥居総一郎社長の考え。改装した穂高連峰を望むテラス付き客室は3万円以上の高単価となり、従来通りの和室は1万5千円からとリーズナブル。

 料理内容もお仕着せでなく、お客さまが選べる仕組み。「山の洋風懐石料理」、ややスモールポーションの「洋風懐石点心」、子供連れに人気の「バイキング料理」、素朴な和食「杣人(そまびと=きこり)料理」の4種がある。ホテル側のオペレーションは複雑になり、無駄も多いかに感じるが、このフレキシブルさがウケており、同館の客室稼働率を平均8割程度に押し上げる秘訣(ひけつ)とも言える。鳥居社長の戦略勝ちだ。

 筆者のオススメは、和の器でいただく「山の洋風懐石料理」。例えば、意外と近い日本海の鯛に、酒盗と山芋のソースを合わせたり、地元産信州和牛を薄切りの餅と湯葉で包むなど、フランスで修業を積まれたシェフによる、フレンチの技術に和のテイストを取り入れた斬新なお料理の数々を堪能。標高1500メートルの口福(こうふく)のひと時だった。

 次の改装では、メインダイニングを大幅にリニューアルする。そこで不肖筆者が、朝・夕食のブッフェ料理についてアドバイスさせていただくことになった。鳥居社長の研ぎ澄まされた感性を大切にしつつ、女子、または昔女子の心をつかめればと考えている。来春に乞うご期待! 結果を味わいに、ぜひ上高地にお運びいただきたい。

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

信州和牛

信州和牛

日本海の鯛

 
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