【竹内美樹の口福のおすそわけ 321】ニッポンの誇り、海苔の不思議 その1 宿泊料飲施設ジャーナリスト 竹内美樹


 前号のテーマ納豆同様、日本人にとってはごく普通の食材なのに、外国人からすると奇妙な食べ物の一つが海苔(のり)。真っ黒な紙を食べるみたいで気持ち悪いとか、かみ切れないとか、磯の匂いがイヤだとか。ゆえにカリフォルニアロールは、海苔が内側酢飯が外側の「裏巻き」だし、最近ではインスタに、カラフルな大豆シートで巻かれた寿司(すし)やおむすびが登場する。

 銀シャリでも酢飯でも、海苔で巻いて食べるとダンゼンおいしくなるのに、と思う。実はそれには、ちゃんと根拠があるのだ。

 われわれ人間が感じる味覚は、「五基本味」で構成されている。甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の五つだ。第5の味として認められたうま味は、日本人が発見しただけあって、日本の出汁(だし)の素となる食材に多く含まれている。代表的なうま味成分である、昆布の「グルタミン酸」、鰹節(かつおぶし)の「イノシン酸」、干し椎茸(しいたけ)の「グアニル酸」だ。海苔にはなんと、この三つが全て含まれているのだ。天然の食品の中で三つがそろっているのは、唯一海苔だけだそうだ。

 それにしても、海苔ってあまりに身近だから気に留めていなかったが、知らないことが多過ぎる。例えば、海苔のパックに「全型」と記載されていることがあるけど、コレって何?

 調べてみたら、海苔のサイズって決まっているそうだ。昭和40年代に縦21センチ横19センチと全国的に統一されたという。元々板海苔は、江戸時代に浅草和紙の製法にヒントを得て発明されたため、その木枠のサイズの名残だとか。また、単位も紙と同じ「帖」を使う。半紙は20枚で1帖だが、海苔は10枚で1帖だ。10帖を束にし、紙の帯を付けたものを一把(いちわ)と呼ぶ。

 江戸の特産品だった「浅草海苔」の名の由来はその浅草和紙にちなんだという説や、江戸時代は浅草近辺の海で海苔が採れたからなど諸説ある。アサクサノリという品種もあるが、今や絶滅危惧Ⅰ類に。より繁殖力が強く成長の早いスサビノリの普及や、東京湾の埋め立ても要因だろう。

 江戸時代には、養殖といっても自然任せの部分が大きかったらしい。船を係留する支柱などに海苔が生えていることに気付いた江戸の漁師が、試しに海中に支柱を立ててみたところ、海苔の養殖に成功したというのだ。だが、当時まだ海苔がどうして支柱に付着するかも分かっておらず、サッパリ採れない年もあり、生産高は不安定だった。運が良ければ採れることから、海苔は「運草(うんぐさ)」とも呼ばれたそうだ。

 昭和24年にイギリスの藻類学者ドゥルー女史が海苔のライフサイクルを解明、海苔は夏の間ミクロサイズの糸状体で、貝の中に潜んでいることが分かったのだ。それが日本に伝えられたことで、養殖技術は劇的に向上したという。
 じゃあ、現代の海苔はどうやって食卓まで届くのか? よく「初摘み」とか「新海苔」なんて表示もあるが、海苔に旬はあるのか? まだまだ不思議なことだらけ。続きは次号で!

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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