前号に続き、ジャガイモのお話。ヨーロッパで飢饉(ききん)の対策として広まり、「貧者のパン」と言われるまでになったジャガイモ。日本でも天保の飢饉の際、多くの人々を救ったとして「御助芋」と呼ばれるようになり、それがジャガイモの語源となったという説も。
農作物として優秀なだけでなく、栄養価も高い。デンプンの他にビタミンCやカリウムも多く含んでいるから、フランスではpomme de terre(大地のリンゴ)と呼ばれるのだそう。
美食の国フランスでは、ジャガイモの調理法も実にさまざま。中でも筆者が大好きなのが、ドーフィネ地方の郷土料理「グラタン・ドフィノワーズ」、略してドフィノワだ。肉料理の付け合わせとして登場することが多く、今まで食したピカイチは、札幌三ツ星フレンチ「モリエール」のモノ。
メインが供されると、後から熱々のグラタン皿が運ばれ、お肉の脇っちょにサーブして下さる。コレがムチャクチャ美味なのだ。
いつも、うぉぉぉーっ!もっと食べたい!と思うのだが、そこは三ツ星レストラン、おかわりを頼みたいところをグッとこらえる。
例えばお店で買ったおにぎりって、ハズレのことがある。食べても食べても具に到達せず、やられた!と思う。だから自分で作る時は、端っこまで具を入れる。そう、家で作れば不完全燃焼せずに済むのだ。
…というワケで、ドフィノワを作ることに。調理師学校によっては、フランス料理のカリキュラムで一番目に位置する伝統的な料理だが、家庭料理として伝わってきたからか、いろいろなレシピがある。でも、ジャガイモを薄切りにすることと、ベシャメルソースを使わずジャガイモのデンプンでとろみをつけるということは共通のよう。
バターを塗ってニンニクをこすりつけた耐熱皿に薄切りのジャガイモを並べ、塩コショウとナツメグで味を調えた牛乳&生クリームをひたひたに注ぎ、オーブンで焼くというのが一般的な作り方。だが、ジャガイモに火が通るのに時間が掛かるので、筆者はいつも時短レシピ。先に牛乳&生クリームで煮ちゃうのだ。それを耐熱皿に入れてオーブンに突っ込むだけ。その方が、表面が焦げているのにジャガイモはまだ硬い、なんてことになるリスクも回避できる。
先日はぜいたくにも、札幌で買ってきた「インカのめざめ」で作ってみた。世界中に約2千もあるというジャガイモの品種の詳細はおくとして、これについてのみ述べるなら、肉が黄色で糖度が高く、濃厚な味わいが特徴。そのドフィノワの出来栄えを一言で表現するなら、甘ウマ。しかもお代わり自由! なんて口福なんだろう!
われわれが食べているのは茎が肥大化したもので、同じナス科のトマトに似た実が成ることは、あまり知られていない。分かっているのは、ただおいしいってこと。煮て良し、焼いて良し、揚げて良しの万能選手ジャガイモ。さて、今夜はどうやって食べようか?
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。