【竹内美樹の口福のおすそわけ 236】レイクロブスター! 竹内美樹


筆者がフィンランドで食べたザリガニ

 レイクロブスター、またの名をクレイフィッシュ、その正体とは…ザリガニである。北欧では夏になると、至る所でザリガニ・パーティーが開かれる。現地でもヨーロッパ各地の高級レストランでも人気があり、乱獲によって一時絶滅の危機にひんした。そこで漁期を夏の2カ月間のみとし、その時期にザリガニ・パーティーを行うのだ。

 一度食べてみたいと思っていたが、昨夏フィンランドでそれがかなった。人々が夢中になるそのお味は、エビのようでもあり、カニのようでもあり、コクがあった。頭部のミソは「ザリガニバター」と呼ばれるが、確かにバターのごとく濃厚。

 また食べたいなぁと思っていたが、なかなか機会に恵まれない。日本でも最近、スウェーデン発祥の某家具量販店が毎年夏に開催する「ザリガニフェスティバル」が話題に上る一方、「ザリガニって食べられるの?」という人もまだ多い。

 実はこのたび、筆者が役員を務める「神田明神下みやび本店」で「サマースペシャル」という企画を開催することになった。大人向けの店の集客力が落ちるこの時期、何とかせねばと頭をひねった結果、エビの食べ比べをテーマにしたコースを考案。その目玉としてザリガニを加えてみたが、仕入れ先が見つからない。

 やっとたどり着いたのが、阿寒湖のレイクロブスター、正式名称ウチダザリガニ。1926年、当時の農林省水産局が優良な食用種としてアメリカから移入。フランス料理で使用される高級食材、エクルヴィスことヨーロッパザリガニの代用として、1930年には摩周湖に476個体を放流、その後阿寒湖、釧路湿原へと広がったという。だが残念なことに、今では生態系や農林水産業へ被害を及ぼす特定外来生物に指定され、「日本の侵略的外来種ワースト100」にもその名を連ねている。

 阿寒湖といえば、マリモだ。国の特別天然記念物であり、同時に絶滅危惧種で、保護していかねばならないというのに、なんとウチダザリガニが食べているというのだ。試算によると、阿寒湖全てのウチダザリガニがマリモだけを食べたら、1年ちょっとで食べ尽くされてしまうという結果が出たそうだ。オマケにザリガニは、生命力や繁殖力も強い。昭和初期にアメリカから輸入したアメリカザリガニはたった20匹だったそうだが、その後爆発的に増え、今では日本全土に広がっている。恐るべし、ザリガニパワー! 対抗するには、われわれが逆にザリガニを食べてしまうしかないと、本気で思う。

 実際、阿寒湖漁業協同組合から取り寄せ、食してみた。在来種ニホンザリガニやアメリカザリガニよりずっと大型で、可食部分が多く、爪にも身が詰まっている。ミソもタップリで旨味があり、まさにレイクロブスターという名前にふさわしい。海に住むロブスターも、実はザリガニの仲間。このミニチュア版ロブスターを食べてマリモが救えるなら、お安い御用だ。皆さまも、ぜひお試しあれ!

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。


筆者がフィンランドで食べたロブスター


筆者が日本で食べたアメリカザリガニ

 
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