【竹内美樹の口福のおすそわけ 235】ほほえみのタネ その2 竹内美樹


山形牛米澤豚しゃぶしゃぶ膳

 前号に続き、天童温泉「ほほえみの宿 滝の湯」。ここではその名の通り、館内のあちこちでほほえみのタネを見つけられる。例えば、自分で作る温泉玉子。生卵の殻に名前を書いて「温泉たまご釜」に沈めて待つことしばし。出来たてほやほやの温泉玉子が、宿泊客は無料で楽しめる。また、大浴場前の湯上がり茶屋では、何とグラスビールも無料でいただける。太っ腹! 気付かずに通り過ぎてしまいそうなお客さまに、スタッフがわざわざ「ビールいかがですか?」と声を掛けていた。スルーしてしまえば原価が下がるのに…と思うが、これこそがお客さまのほほえみのタネなのだ。

 夕食は、同館山口敦史社長おススメの「山形牛米澤豚しゃぶしゃぶ膳」。前菜は、金銀に輝く器に蛸(たこ)桜煮や黄身手毬(まり)、子持ち昆布など、ひと口サイズのお料理が盛り込まれた一品。続くお刺し身の後、いよいよお待ちかねのメインの登場だ。

 野菜を挟んで、右に奇麗なサシの入った山形牛、左に真っ白な脂身の美しい米澤豚が並んでいる。山形牛は、県内で最も長く肥育された未経産および去勢の黒毛和種で、肉質4等級以上のもの。「米澤豚一番育ち」は、飼料の工夫により通常の豚肉の2.7倍ものビタミンEを含む三元豚。

 鍋は1人前の固形燃料で温めるタイプだが、鉄製の本格的なしゃぶしゃぶ専用鍋。聞けば、やはりこれだけ厚手だとなかなか火が通らないので、先に厨房で熱々にしてから運んでくるそうだ。お客さまに喜んでもらうために、できることは最大限やるという姿勢も、ほほえみのタネだ。

 山形牛は、口どけの良い上質な脂が肉のおいしさを倍増させている。一方の米澤豚は、ビタミンEの含有量が多いため酸化しにくいそうで、フレッシュな味わい。海藻を食べているからか、旨味も濃く甘味も強い。モチモチの食感とあいまって、意外なほど超美味。

 箸休めの「冷やし玉子豆腐」は、ワインレッドに金縁のワイドリムが付いた洋皿に、カニ、エビ、オクラとセルフィーユで飾られた正方形の玉子豆腐が盛られ、見た目はまるでフレンチ。口に運べばしっかり和のおだしが効いていて、見た目とのギャップに思わずほほえんでしまう。

 焼物は「鯛(たい)と帆立(ほたて)のホイル包み焼き」。開いた途端に立ち昇るハーブソースの香りは、そろそろおなかが一杯になってきたところで、ちょうど良い食欲増進剤になる。締めの椀物と山形つや姫のごはん、そしてお漬物には山形名物玉蒟蒻(こんにゃく)も入っていた。サスガ、都道府県別蒟蒻消費量第1位!

 いつの間にか2千坪以上に増えていたという自家農園で、山口会長自ら循環型農法で栽培されている無農薬有機野菜は、われわれの体にも環境にも優しい。その新鮮な野菜をふんだんに使い、化学調味料を使用せず素材本来の味を生かしたお料理は、まさに地産地消のごちそう。口福もまた、ほほえみのタネ。これらのタネは、この先多くの人に、笑顔という名の大輪の花を咲かせるだろう。

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。


夕食の前菜


山形牛米澤豚しゃぶしゃぶ膳


しゃぶしゃぶ専用鍋


鯛と帆立のホイル包み焼き


冷やし玉子豆腐


玉蒟蒻の漬物

 
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