【竹内美樹の口福のおすそわけ 217】ホンモノの味 竹内美樹

  • 2018年3月12日

オマールエビのロテ

 出会いのキッカケは、1皿のスープだった。十数年前、香川県高松市のフレンチレストラン「ボワ・エ・デュポン」で、スープを口に含んだ瞬間、味蕾(みらい)に衝撃が走った。「ホンモノのコンソメ・ドゥーブルだ!」。そして感激のあまり、メートル・ド・テルに「シェフとお話させていただけますか?」とお願いした。オーナーシェフの木場巳雄氏とは、以来大変親しくさせていただいている。香川や徳島の生産者の方々をずいぶんご紹介いただいたが、現地に赴く際にはみずからご同行下さる、面倒見の良い親分肌のシェフだ。

 西日本放送で毎週水曜放送中の「木場シェフの手軽にフレンチ」は、タイトルを変えつつ今年23年目に突入。長寿番組を支える人気シェフは、意外にも大学卒業後、証券会社でいったんサラリーマンを経験。何となく違和感を覚え転職したホテルでストに遭遇し、調理とは無関係だった同氏も社員用のサンドイッチづくりに駆り出された。もっと早く美しく仕上げたいという思いが、料理に対する興味につながりこの道へ。

 国内で修業を積んだ後、渡欧。ベルギーで生涯の師匠となるクロード・デュポン氏と出会い、その縁で大阪万博ベルギー館の日本人総料理長として活躍。帰国しホテルの料理長就任後、世界料理大会で二度の金メダルに輝く。

 1995年、苗字の一文字「木」の仏語Boisと師匠の名をつけた同店を開店。2010年には、フランスの農業や食文化の普及に特に功績のあった人に授与される、フランス共和国農事功労章「シュヴァリエ」を受章。2008年から高松市の教育委員を務め、現在、県内の小学校を巡り料理を教える「キッズシェフ」など食育にも取り組む。

 そんな木場シェフのお料理を、久々にいただいた。いずれも超がつく美味だが、特筆すべきはやはり看板料理の一つ、フォアグラのソテー。口の中でとろける絶妙な焼き加減とオレンジソースのおいしさは、他店のフォアグラとは一線を画す逸品。そしてもう一つの看板メニュー、オマールエビのロティ。刻んだトマトが入ったバターソースの絡んだエビは、しっとり感の残るロースト加減で絶品。筆者の大好物である同店のウズラのローストは、皮はパリッと肉はジューシー、赤ワインソースと共に口に運べば口福(こうふく)のひととき。骨付きの塊をローストした仔羊は、外はこんがり、中心部分はレアの見事な仕上がり。かめば閉じ込められた肉の旨味が口の中に広がる。あぁシアワセ。

 クラシックでもヌーベルでもない木場シェフの料理は、研ぎ澄まされた技術に裏打ちされたホンモノの味だ。料理は経験ではないと同氏は言う。「今日この瞬間にこれまでで最高の料理を作ること。過去も未来もなく毎日を大切に積み重ねること」が信条。料理は常に素材との格闘だと語るムッシュ、御年76歳。

 これからも厨房で料理と向き合い続けるという。ファンの一人として、1日も長く現場で闘い続けていただきたいと願う。

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。


フォアグラのソテー


オマールエビのロテ


ウズラのロースト


ローストした仔羊

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