超がつく蟹好きの筆者にとって、昨年はとても残念な出来事があった。上海蟹のダイオキシン汚染問題だ。以来上海蟹を食す機会を逸していたが、先般大連を訪れた際その旨をもらしたところ、何と現地の方が取り寄せて下さった。
同じ中国国内なのだから、大連でも売っていそうなものだが、海に近い大連では淡水の蟹はあまり食べないのだそうで、なかなか手に入らないという。
活けの状態で取り寄せた蟹をレストランで蒸していただき、久し振りに大好物にありつくことができた。雌雄両方そろえてくださったので、熱々のうちにまずは内子を抱えた雌から。このホクホクした食感の内子がたまらない。
続いて、ねっとりしたミソが美味な雄。どちらかと言えば雄が好みの筆者、舌にまとわり付く濃厚なミソの旨味に、久々に悶絶してしまった。あぁ~口福。
現地在住のご夫妻、取り寄せる蟹がちゃんとした物かどうか確認するため、事前に一度試食されたそうだ。大連市内は別として、滞在していた開発区ではそれほど流通していないのだ。この時期は、大連で最も人気のワタリガニの旬なので、上海蟹には誰も見向きもしないのだという。
翌日の晩、今度は中国の方に海鮮料理のレストランに連れて行っていただいた。店内にはさまざまなサイズの生簀が設えられており、その中から魚介類を選んで好みの方法で調理してもらうスタイルだ。見ていると、端の方に「大閘蟹(ダーヂャーシェ)」こと上海蟹があるではないか! だが、紐(ひも)でくくられたそれは、たったの8匹。大きな水槽にたくさんのワタリガニが泳いでいるのに比べると、申し訳程度に置いてあるといった感じであった。
それを眺めていると、すかさず現地の方が「それはおいしくないです。今は絶対こっち!」とワタリガニを指差した。なるほど、やっぱりね。かくして今度はコチラをいただくことに。
このワタリガニ、甲羅の形から菱蟹とも呼ばれるが、正式名称はガザミである。一番後ろの脚がオール状になっており、泳ぐことができるので、遠くまで渡れるということでワタリガニと呼ばれるようになったとか。近縁種のタイワンガザミとそっくりだが、ハサミがついている腕のトゲの数で見分けられるという。ガザミは四つ、タイワンガザミは三つ。大連でいただいたのはトゲ四つだったので、ガザミだ。
活け車海老を茹でたものや、殻の大きなタイラ貝のガーリックソースなど、ぜいたくなお料理がいろいろ登場し、最後にメインとして運ばれて来たのがワタリガニだった。「これが今の時期一番のご馳走です」と言う、地元の方々のワタリガニ愛が感じられる。やや淡泊ではあるが、甘味のある身を堪能させていただいた。
2夜にわたって、生息地もサイズも味もまったく異なる蟹を食べ比べることができて、ものすごく幸せであった。世界中には、多種多様な蟹がいる。今年もアレコレ食べまくるぞ!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。
大連の上海ガニ
大連のワタリガニ