【私の視点 観光羅針盤159】地域が稼ぐとは? 大正大学地域構想研究所教授 清水慎一


 2004年、宮城県鳴子で開催されたグリーンツーリズム大会での結城冨美雄さんとの出会いは、筆者の人生を変えた。JR・JTBを通して、デスティネーションキャンペーン(DC)などを主導し観光振興に取り組んできた筆者が、観光による地域づくりの意義を初めて認識したからだ。

 彼は優しい口調で観光偏重のグリーンツーリズムの現状を糾弾し、ツーリズムによるグリーン(農業)の維持の重要性を訴えた。併せて、「他人事ではなく自分事」として、観光客などの食べ手が再生産可能な価格で米を買い支えるという具体的な実践を提起した。

 今に続く「鳴子の米プロジェクト」の始まりだ。「美しい農村風景が観光に不可欠だ」と諭された筆者も、毎年6俵近い米を購入して、関わった。以来、観光地づくりではなく、観光による豊かな地域づくり、すなわち観光地域づくりを提唱するようになった。

 それから十数年。中山間地域の衰退は一部の善意ある取り組みなどの対策ではカバーしきれないほどのスピードで進んでいる。生業である農業、小売業など地域経済の疲弊は深刻度を増し、立て直しには抜本的で継続的な対策が必要だ。

 そんな現状に警鐘を鳴らしたのが、昨年9月京都大学と日立製作所が発表した「AIの活用により、持続可能な日本の未来に向けた政策提言」だった。持続可能な地方分散型シナリオの実現には、17~20年後までエネルギーなど経済循環を高める継続的な政策実行が必要だと、指摘した。

 これに呼応するように地域の経済循環を論じた好著が出た。東京都市大学教授・枝廣淳子さんの「地元経済を創りなおす」(岩波新書)だ。著者は地域経済の実態は「漏れバケツ」だと指摘、地域に入ったお金を循環させる必要性を説く。

 そのために、地域にお金を引っ張ってきて落とさせるかではなく、地域からのお金の流出を防ぐことが大事だという。具体的な手順として、給食や日々の買い物を事例にお金の循環を「見える化」し、原因を探り、域内調達、域内消費、域内投資など打つ手を考え、皆で実践するプロセスを分かりやすく教える。

 言うまでもなく、地域が稼ぐ仕組みづくりこそ、観光地域づくりの司令塔としてのDMOの最たる役割だ。そのためにはDMOのリーダーはこのような地域経済を循環させることの意義や方策を丁寧に説明し、皆が快く実践する素地を作らなければいけない。

 振り返ると、「鳴子の米プロジェクト」は地域経済循環の先駆的なモデルだった。結城さんの取り組みは、リーダーが高い志を掲げ、普段から多様な関係者との平場の議論と着実な合意形成を積み重ねることがいかに大事かということを、教えてくれた。

(大正大学地域構想研究所教授)

 
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