30年前、昭和が終わり、平成が始まった。世界ではベルリンの壁が崩壊し、東西冷戦が終結した。国内では、1987年末に東証の日経平均株価は史上最高値の3万8915円を付けた。観光もリゾートブームを背景に絶好調だった。
しかし、平成は激動の時代の入り口だった。バブル崩壊など高度成長期の反動に政治の混乱と金融危機、大震災などが拍車をかけ、株価は一時1万円を割った。政治の安定とともに景気が好転し、持続するようになったのは、つい最近のことだ。
観光も同様で、旅行市場規模(人口数×1人当たり旅行回数)は、30年前の6割にまで落ち込み、低迷が続いた。平成の終盤に入って、官民一体の「観光立国」戦略によりインバウンド観光客が急増し、どうにか光明が見えてきた。
しかし、観光業界にはいまだに高度成長期の後遺症にあえぐところがある。例えば、客室稼働率が全国最下位に甘んじている長野県の宿泊施設は、軒並み施設・設備の老朽化と従業員の高齢化に悩んでいる(2017年秋、長野県686施設調査)。
さて、来年はお代替わりが予定されている。新たな時代に、「観光立国」を名実とともに実現し、希望に満ちた観光産業を創り上げるにはどうしたらいいか。時代の汽水域にある観光業界の課題を述べてみたい。
まず、ブランディングだ。団塊の世代が古希に入り、縮小が予想される日本人マーケットでリピーター客を増やし、インバウンド観光客を安定的に取り込むには、他と差別化された個性的なサービス提供に取り組む必要がある。
次に、ヒューマンタッチとヒューマンスケールを重視したサービス提供と空間形成だ。これができなければ、人間的で本物のおもてなしや雰囲気を五感で楽しみたいという上質な滞在客を獲得できないし、単価も上がらない。
その次に、最新技術の導入だ。AI(人工知能)、自動運転、ロボットなどの技術を積極的に取り込むことにより、生産年齢人口の減少に伴う担い手の確保や外国人との接客などのさまざまな課題に対応し、業界の生産性を向上させなければいけない。
このように、観光業界の課題は少なくない。その解決には、過去の成功体験にとらわれない高度なマーケティング手法に基づく、既存ビジネスモデルの大胆な縮小・転換、組織の見直しなどによりイノベーションを成し遂げるマネジメント人材が不可欠だ。
ちなみに、30年前筆者が在籍した国鉄は「薩長の下級武士が原動力となった明治維新や、公職追放によって上層部のほとんどが排除された終戦直後に似た、若い世代が中心になったJR発足」(「昭和解体」牧久 講談社)により、再生した。
しかし、今後は業界内部の世代交代だけでは不十分だ。産官学、金融機関、地域と一体となってイノベーションを貫徹できる人材を育成、登用、確保することこそが、観光業界の最大の課題だ。
(大正大学地域構想研究所教授)