【私の視点 観光羅針盤121】日本版DMOの意義 清水慎一


 観光庁によるDM0の登録手続きが始まった。候補法人の中から、要件が全て充足されたと認められるものが登録される。これにより、国は近い将来、世界水準のDMO(先駆的インバウンド型)100の構築を目論む。

 周知のように、登録要件は(1)多様な関係者の合意形成(2)データに基づく戦略やKPIの策定(3)戦略に基づく一元的な情報発信(4)組織と人材(5)安定的な運営資金の確保―の五つである。これら全てが「すでに該当」になっていなければいけない。

 現在、候補法人は取り組み状況を記載した事業報告書などを提出して、手続きを進めている。この登録が、2018年度概算要求に計上された「広域周遊観光促進のための新たな観光地域支援事業」の実施主体につながるだけに、皆真剣である。

 「日本版DMO推進研究会」顧問として長年DMO構築に関わってきた筆者としては、この登録手続きを機にあらためて観光地域づくりにおけるDMOの意義・役割は何かという原点に立ち返って、議論し直すことを要望したい。

 議論における第1のポイントは、DMOは観光地域づくりを推進するかじ取り役だということだ。

 DMOの主たる役割は、観光誘客により地域全体の利益を向上させるなど地域を活性化させることだということが、関係者間で共有されていなければいけない。

 従前の観光協会が取り組んできた集客主体の観光地づくりとは全く違う。だから、DMOはそれまでの観光振興の総括・反省の上に立って構築される。既存の行政や観光協会の役割や予算を見直さずに、DMOをつくることはあり得ないのだ。

 第2のポイントは、観光地域づくりに不可欠な多様な関係者の巻き込みができているかどうかだ。幅広い団体や住民が集い、地域のあるべき姿に向かって観光により地域課題を解決する方策を平場で議論し、取り組む仕組みが機能していなければいけない。

 ちなみに、このような持続的な地域マネジメントなどの仕組みがあるからこそ、行政からの補助金などを安定的に運営資金とすることが認められる。DMO自身が収益を上げることは主たる目的ではない。「稼ぐ」とか「自立・自走」という言葉に惑わされて、DMOの本旨を見失わないようにしたい。

 第3のポイントは、補助金を使うからには観光地域づくりにおいて目指すべき姿が明確であると共に、その活動の意義や成果などを客観的なデータに基づいて常に分かやすく整理、提示できていなければいけない。そのために、データの継続的な収集やそれに基づく戦略の策定、KPIの設定、PDCAサイクルの確立が必要になるのは当たり前だ。

 以上のように、登録手続きにあたってはDMOの意義・役割をあらためて議論しながら進めてほしい。くれぐれも、登録要件の外形的な整理だけに終始しないようにしたい。

 (大正大学地域構想研究所教授)

 
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