
2月下旬に日本コンベンション研究会の主催による国際観光コンベンションフォーラムが徳島市内で開催された。この研究会は2006年度から毎年、全国のコンベンション関係者や自治体などに呼びかけて、フォーラムを開催し、最新情報やアイディアを共有するとともに人的ネットワークを広げてきた。今年は徳島観光協会の協力・支援を得て、2日間にわたって徳島市内で熱心に討論が行われ、各種行事を通して会員相互の交流が深められた。
今年のフォーラムのテーマは「2030に向けたMICEロードマップを考える」であった。政府は23年に「新時代のインバウンド拡大アクションプラン」を策定し、MICEに関しては30年までにアジア・ナンバーワン、世界5位以内の国際会議を開催して「国際会議開催国として不動の地位を確立」することを目指している。
今回のフォーラムでは、松浦素子さん(本家松浦酒造10代目蔵元)による特別講演「酒蔵の未来」に始まり、基調講演、三つの分科会やパネルディスカッションが行われ、アクションプラン実現に向けて興味深い討論が重ねられた。日本全国の各都市におけるMICE推進で中心的役割を果たしているキーパーソンが数多く参加していたので、それぞれの団体や関係者が何を為(な)すべきかについて貴重な意見交換が図られた。
全国のMICE関係者の共通の悩みの一つは、人財育成や各種事業展開のための資金確保問題の深刻さであった。観光庁の来年度予算では「MICE誘致の促進」のための予算は8億6千万円に過ぎない。今年度は9億1千万円が投入されていたので予算増額どころか、減額されている。政府は30年までに「アジア・ナンバーワンの国際会議開催国として不動の地位確立を目指す」という国策を提示していながら、現実には民間サイドが汗をかいて頑張りなさいというわけだ。
一方、いま北海道では半導体を開発する民間企業ラピダスに対して、政府は国策として巨額税金を投入している。政府は既に9200億円の国費を投入し、来年度当初予算で1千億円を計上。さらに政府は「AI・半導体産業基盤強化フレーム」を策定し、30年までにAI・半導体分野に10兆円以上の支援を確約。新聞報道では経産省幹部の話として「ラピダスがダメになれば、経産省が倒れるぐらいのインパクト」とのこと。
私にはAIや半導体の価値が不明であるが、日本の未来にとって「MICE」の価値は極めて重要だ。MICEは一般の観光と比べて高い経済的波及効果が期待できるだけでなく、人的ネットワーク構築によって新しいビジネスやイノベーション創出の機会になるとともに、国や地域のブランディング効果や国際競争力の向上にも貢献している。
米国第一主義を掲げる第2次トランプ政権の発足によって、世界大動乱・大混迷時代が既に始まっている。今こそ日本はMICE振興に本腰を入れて、さまざまなかたちで人々が意見・アイディアを交換し、交流することによって、良質な経済的・社会的・政治的・文化的・環境的波及効果の創出を目指すべきである。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)
(観光経済新聞2025年3月10日掲載コラム)