【私の視点 観光羅針盤 449】SHOGUN効果 吉田博詞


 真田広之がプロデュース・主演を務めるドラマシリーズ『SHOGUN 将軍』が米国テレビ界の”アカデミー賞”ともいわれる最高峰の賞「第76回エミー賞」で数多くの賞を受賞したことが話題となっている。9月に授賞式が行われ、作品賞・主演男優賞・主演女優賞をはじめ主要部門を総なめし、エミー賞史上最多となる18部門を制覇。日本人の受賞者も史上最多の9名を記録し、歴史的な快挙を成し遂げたことで国内でもその影響が広がっている。

 そもそも授賞式前から下馬評でも評判は高く、同賞ドラマシリーズ部門で主要部門を含む本年度最多となる25部門にノミネート。日本人も史上最多の11名が候補に挙がっていた。製作・技術系の方々に贈られる「クリエイティブ・アーツ・エミー賞」では、7名の日本人を含む最多の14部門を先行して受賞し、史上最多の受賞作品となっていたため、最終的に発表される主要部門でのさらなる記録更新が期待されていた。

 過去にも、同じ原作から生まれた『将軍 SHOGUN』(1980)や『ラスト サムライ』(2003)で日本のサムライが描かれてきたが、今回の躍進は快挙だ。特に、過去の“海外目線で描くサムライ”の作品は、日本人が観ると違和感を覚えることが多かった。忍者や芸者が不自然に登場したり、武士道精神が歪曲(わいきょく)して描かれたりすることがあった。ニュージーランドで19世紀の日本の村や戦闘が再現された『ラスト サムライ』は、日本でのロケやハリウッドのスタジオセットでも撮影が行われ、リアリティが追求されたが、若干の違和感を覚えた方も多かっただろう。今回のSHOGUNもカナダのバンクーバーでセットおよび周辺ロケ地で撮影が行われたが、2018年の本格制作前から真田広之がキャストだけでなくプロデューサーとしても深く関わり、細部まで丁寧に描こうとした努力が奏功したようだ。

 昨今のインバウンド需要において、忍耐や忠義、自己犠牲等の武士道精神・侍スピリッツへの興味関心がより高まりをみせている。その中で、チャンバラ的なキッチュなものではなく、ホンモノの武士道を学ぶプログラムへの需要も増加している。

 東京では増上寺等を舞台に、徳川宗家19代当主家広氏からパクス・トクガワーナともいわれる平和な社会を築いた徳川将軍の統治の在り方を学び、徳川家家臣によって隆盛した茶道や能楽を体感するプログラムが立ち上がり注目を集めている。熊本では、宮本武蔵が考案した二天一流の18代宗家松永哲典氏による居合道プログラムが展開され、わざわざ熊本まで学びに訪れる訪日客も急増中で、人気を博している。世界がSHOGUNに注目する中で、日本人であるわれわれも改めてこの武士道精神とは何かを再認識し、より誇らしい文化の一つとして継承活動をプログラム化していくことが期待されている。

 SHOGUNはシーズン2、シーズン3の制作に着手することが発表されており、この効果は継続的に期待されるものだ。金沢や山形でもサムライプログラムが隆盛しているが、各地でホンモノ志向の武士道精神に関する学びの場が構築されていくことを願いたい。

(地域ブランディング研究所代表取締役)

 
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