世界が混迷の度合いを深めている中で自民党総裁選が展開され、9名の候補者が乱立した。かつての「三角大福中」や「安竹宮」のような大物議員が並び立つわけではなく、日本の未来を託するに値する人物が見当たらない自民党総裁選は驚くべき現実であった。
最終的に石破茂氏が自民党の新総裁に選ばれ、10月1日の臨時国会で首相に指名される。既に党人事を決め、閣僚の陣容を固めている。9月30日付の新聞各紙の報道では、10月1日に新内閣発足、4日に石破首相が所信表明演説・各党代表質問、9日に衆院解散、15日に衆院選公示、27日に衆院選投開票。石破氏は2023年の自身のブログで「解散は政権の延命や党利党略目的で行われるべきものではない」と指摘していたが、今回は森山裕幹事長が早期解散を進言したと報じられている。
毎日新聞は早々に全国世論調査を実施しており、石破氏に期待するは52%、自民党支持率は33%(立憲15%、維新6%、公明5%、共産4%、れいわ新選組4%、国民民主党2%、支持政党なし25%)。新総裁が取り組むべき政策課題は、物価対策25%、景気対策21%、政治とカネ14%。総裁選で論点となった項目については、派閥の政治資金パーティ裏金事件の実態解明に取り組むべき77%、選択的夫婦別姓の導入に賛成50%など。
立憲民主党の野田佳彦代表は石破政権がさまざまな重要課題について国会の場で十分に議論しないままに、早期解散に踏み込むことについて「臭いものにフタ解散だ」と批判している。国民にとっても石破政権の諸々の政策を十分に吟味できないのは残念至極である。
「三角大福中」の大平正芳氏は戦後政治の中で保守本流の道を歩み、外務・通産・大蔵大臣などの要職を歴任し、1978年に首相に就任。大平首相は就任してすぐに九つの政策研究グループを立ち上げている。(1)田園都市構想研究、(2)対外経済政策研究、(3)多元化社会の生活関心研究、(4)環太平洋連帯研究、(5)家庭基盤充実研究、(6)総合安全保障研究、(7)文化の時代研究、(8)文化の時代の経済運営研究、(9)科学技術の史的展開研究。いずれの政策研究グループにおいても、著名な学者が議長を務め、大学教授だけでなく、在野の碩学(せきがく)、各省庁の官僚が参画し、国家政策に反映させている。
現在の日本はさまざまに解決困難な課題を抱えている。中国は台湾海峡や東シナ海、南シナ海で横暴な振る舞いを繰り返し、核兵器の近代化に余念がない。中国の外相は9月28日に国連総会で「中国は台湾の完全統一を実現する。いかなる勢力も阻止できない」と演説している。ロシアは中国や北朝鮮との連携を強めており、9月下旬には北海道北方でロシア軍機が領空侵犯をしている。
石破氏はまさに内憂外患の度合いが極度に高まる中で日本国の宰相に就任するが、党内基盤が弱いために存分に力量を発揮できるかどうか分からない。国民の側は早期解散による衆議院選挙において、重大な1票を投じることによって、日本の未来を少しでも明るくしていくことが大切になる。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)