
国連の人口予測では2023年中に中国を追い抜いて、インドが人口世界一になるとみなされている。20世紀には中印両国の人口増加が世界の発展の足かせになるといわれてきた。
中国政府は、食糧不足の再来を防ぐとともに社会全体の貧困化を防ぐために、1979年に「一人っ子政策」を導入した。史上類のない大規模な人口抑制策を30年以上も継続した結果、男女比がいびつになり、諸々の弊害が生じている。中国の急激な人口減は今後アジアのみならず、世界全体に大きな影響を与えるだろう。
一方、インドでは長らく「人口は重荷」とみなされてきた。ところが近年における経済発展の結果、人口はむしろ「インドの財産」とみなされるようになった。例えば、米国のIT業界ではインド人の大活躍が話題を独占している。インドの高等教育は優れており、例えば国内に23校あるインド工科大学(IIT)は数多くの優秀な人財を輩出している。現実には大卒者の就職難は慢性化しており、大量失業時代の克服は容易ではない。さらにインドでは貧富の格差が極端であり、超大国インドは数多くの課題を抱えており、今後の発展に注目していきたい。
世界の観光発展との絡みで注目すべき報道が2月中旬に伝えられた。インド財閥タタ・グループ傘下の航空会社エア・インディアは、米国航空機大手ボーイングと欧州航空機大手エアバスに対して航空機を計470機発注することで合意したと報じられている。契約総額は約800億ドル(約10兆6千億円)で、民間航空史上で最大規模になる。
さらにボーイングから追加購入が可能な70機分の仮契約を含めると全体の購入数は540機になる可能性がある。ボーイングに最大290機を発注する場合に「737MAX」が240機を占めると予測されている。
インドは顕著な経済成長に伴って、世界最速ペースで航空旅行市場が拡大を続けている。そのために空港数は過去8年間に倍増したといわれており、今後の15年間で2千機が必要になるとみられている。とはいえパイロットの不足、貧弱な国内インフラ施設、エミレーツ航空などの大手航空会社との厳しい競争にさらされるためにエア・インディアの経営拡大策の成功は容易ではない。
米国のバイデン大統領はインドによるボーイング機の大量発注を受けて、声明で「歴史的合意だ」と強調し、インドのモディ首相との電話会談で両国関係のより一層の強化を確認している。米国は中国との覇権争いを前提にして「自由で開かれたインド太平洋」政策を重視し、その実現のために「日米豪印戦略対話(Quad=クアッド)」を繰り返している。インドは中国と長らく国境紛争が続いており、一方でロシアとは緊密な関係を構築している。米国は成長著しいインドを味方にして、中国・ロシアをけん制している。国際政治・経済の面だけでなく、国際観光の局面でも今後のインドの動きが注目されており、航空機の記録的な大量発注で一挙にブレイクしたといえる。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)