【私の視点 観光羅針盤 370】 流氷の恵みの活用 石森秀三


 日本観光の最も重要なコンテンツは、各地域の風物詩(ある季節特有の現象、生き物、文化、味覚など)である。日本は各地域の風物詩に恵まれており、それらが日本観光の多様な魅力を高めている。

 流氷は北海道の冬を代表する風物詩。日本ではオホーツク海沿岸でしか流氷を見ることができない。ロシアのアムール川河口付近で生まれた流氷は1千キロにも及ぶ遠距離を旅してきて、毎年1月ごろに北海道のオホーツク海沿岸に漂着する。流氷は冬場に海を閉ざす厄介な存在であるが、その一方で流氷は海の食物連鎖の始まりとなるプランクトンを運び、その豊富な栄養によってオホーツク海を「恵みの海」にすることもまた事実である。特に紋別、知床、網走の3地域は「流氷の名所」であり、多数の観光客が訪れる。

 紋別市はかつて漁業の隆盛とともに、金産出量日本一を誇った鴻之舞鉱山などの鉱業も重要だった。そのため1960年代には人口が4万人を超えた。ところが金鉱山の閉山、漁業の200カイリ規制、国鉄民営化に伴う紋別周辺のJR路線の全廃などによって地域衰退が顕著になった。

 77年から20年間、紋別市長を務めた故金田武氏は流氷を生かした地域づくりに活路を見いだした。87年に流氷観光船ガリンコ号導入、91年に道立オホーツク流氷科学センター開所、96年に海中から流氷展望ができるオホーツクタワー開業などを実現させた。「流氷とガリンコ号」は04年に北海道遺産として選定されている。

 紋別市の現在の人口は約2万600人で、60年代の最盛期と比べると半滅しており、人口減少に歯止めがかかっていないが、ふるさと納税による寄付金額は増え続けている。17年度10億円、18年21億、19年77億、20年133億、21年度は152億円でついに全国1位になった。流氷が育む豊かな海の恵みとしての毛ガニ、ズワイガニ、タラバガニ、ホタテ、サケなどの豊富な魚介類に加えて、酪農・畜産品などがふるさと納税の返礼品として人気を博している結果だ。

 紋別市はふるさと納税寄付金を活用して、アザラシの保護、森林・湖沼・河川等の環境保全啓発、次代を担う人材の育成、医療・福祉・子育て支援の充実化、人口減少対策などを行っている。紋別市の22年度の一般会計予算額は291億円であったが、そのうち、約131億円がふるさと納税関連(ふるさと納税寄付金69億、ふるさと納税基金からの繰越金62億)で一般会計予算の約45%を占めている。

 ふるさと納税についてはさまざまな批判がなされているが、紋別市の事例を見てみると、少子高齢化が急速に進展する中で、流氷が育むオホーツク海の恵みを最大限に活用しながら、地域の未来づくりに寄付金を有効活用しており、高く評価することができる。

 さまざまな面で衰退が著しい日本は今後もっと地方分権を強力に推進して、地域の内発的・自律的発展を応援すべきである。観光業界には流氷の恵みをより多くの人々が学び、楽しんでもらえる応援をお願いしたい。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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