世界の人口が80億人に達したと報じられている。1950年の世界人口は25億人だったので、驚異的な人口爆発である。国連の推計では2037年には90億人、58年には100億人に達するとのこと。
地球における人口爆発は必然的に二酸化炭素排出量の増加による地球温暖化や気候変動に影響を与え、食糧増産に伴う森林の喪失、パンデミックの発生、さまざまな地域紛争などを生じさせる。その結果、アフリカなどを中心に飢餓と貧困によって大量の難民が生み出される。
われわれはいま「人新世(人類が地球の生態系や気候に大きな影響を及ぼすようになった時代)」の真っ只中にいるという認識が重要だ。ストックホルム・レジリエンス・センターは「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」という概念を提唱している。人類が地球で安全に活動できる範囲を科学的に定義し、その限界を示す概念だ。地球の安定性とレジリエンス(自然に回復する力)を維持する上で最も重要な九つのシステムを特定し、各システムが限界を超えていないか分析・検証している。
九つのシステムとは、(1)気候変動(2)生態系の損失(3)土地利用の変化(4)グローバルな淡水利用(5)窒素とリンの循環(6)海洋酸性化(7)大気エアロゾルの負荷(8)成層圏オゾンの破壊(9)化学物質による汚染。今後とも人口爆発が継続する地球で、人類が繁栄しながら生き続けていくことは容易ではない。
一方、日本では22年の出生数80万人の大台割れが確実になっており、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)による30年に80万人を下回るという想定をはるかに超えるペースだ。さらに50歳までに一度も結婚したことのない人の割合も急増している。20年の50歳時未婚率の全国平均は男性が28・2%、女性が17・8%。1990年には男性が5・5%、女性が4・3%だったので、未婚率の急増が顕著である。
社人研は日本の総人口が1億人を下回る時期を2053年と推計しているが、かなり早く到来しそうだ。日本はすでに「世界に冠たる人口減少国」であるが、人口急減は社会的、経済的、政治的、文化的、環境的に大混乱を招来する。岸田政権は次元の異なる少子化対策を検討しているが、日本の近未来に生じる人口急減に伴う大混乱対策こそ真剣に検討すべきである。
欧州では人口爆発との兼ね合いで「地球の限界」が分析・検証されているが、日本では90年代から「限界集落(人口の50%以上が65歳以上の集落)」が問題視されてきた。要するに少子高齢化に伴って地域の共同生活の維持が限界に近づく集落が急増している。日本では今後、限界集落、限界自治体が急増していくので、それらの地域では住民の生活維持システムが崩壊する。
岸田政権は、国の防衛力強化のために巨額予算の投入を検討しているが、その一方で近未来に生じる人口急減に伴う地域社会の深刻なダメージに対してあまりにも無防備過ぎる点が気がかりだ。地域社会の健全な存続なしに地域観光の発展はあり得ないので、観光業界も人口急減問題を視野に入れた論議が必要だ。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)