
11月中旬に日本博物館協会(日博協)主催の全国博物館大会が札幌で開催された。日博協は日本の博物館園を束ねる組織で全国大会を毎年開催している。今回は札幌での開催になったので、私は大会実行委員会委員長として1年前から準備を行った。幸運にもコロナ禍が下火になったので感染防止策を講じて、全国から約250人の参加者を迎えて滞りなく行事を行うことができた。
政府は規制を緩和して経済の立て直しを図っており、観光支援事業「Go Toトラベル」を来年初めに再開する予定であった。しかし南アフリカなどで見つかった新型コロナウイルスの新変異株「オミクロン株」の感染が欧州などで急拡大しているために再考を迫られている。オミクロン株はまだ分からない点が多いが、国立感染症研究所は警戒度が最も高い「懸念される変異株(VOC)」に指定している。
オミクロン株はアフリカ南部で見つかってから短期間で欧州を中心にして感染拡大が判明した。そのために先進各国が南アフリカやその周辺国からの入国を禁止した。それに対してアフリカ諸国では、先進諸国がワクチンを独占しているために、ワクチン不足を余儀なくされたアフリカで変異が加速した可能性があり、「ワクチン・アパルトヘイト(人種隔離)」であるという批判が強まっている。
高い効果が期待されるファイザー社やモデルナ社のワクチンはその多くが先進諸国に供給されており、アフリカ諸国のワクチン接種は進んでいない(12月3日現在でアフリカ全体のワクチン接種率は7%)。国連(UN)のグテレス事務総長は「アフリカは変異株の温床」と指摘し、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は「ワクチン供給の不平等を解消しないと、パンデミック(世界的大流行)は終わらせられない」と強調している。一方で日本を含めた先進諸国ではワクチンの追加接種が加速しており、ワクチンをめぐる「南北格差」は極めて深刻な状況にある。
そういう状況の中で、11月29日から西アフリカのセネガルで「中国アフリカ協力フォーラム」が開催されており、中国はアフリカにコロナウイルスのワクチン10億回分の提供を表明している。ワクチンは6億回分を無償で支援し、4億回分は中国企業とアフリカ側が協力して生産する形で提供されるとのこと。さらに医療従事者と公衆衛生の専門家の派遣も表明しており、米中対立の中でアフリカへの影響力の拡大を鮮明にしている。
日本では10月以降にワクチン普及でコロナ禍が収束しつつあるという楽観論が広がり、経済活動の復興が期待されたが、オミクロン株の脅威によって楽観論が一変した。制限緩和に向かい始めていた旅行や飲食などの消費活動に冷や水が浴びせられ、また製造業においてもコロナ禍に脆弱(ぜいじゃく)な新興国でサプライチェーン(供給網)が寸断される危険性が高まっている。オミクロン株の脅威で厳しい年の瀬を迎えることになった。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)