岸田文雄首相は就任後初の外遊で英国を訪れ、グラスゴーで開催されているCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)で演説を行った。首相は2050年の温室効果ガス排出量の実質ゼロに向け、アジアでリーダーシップを発揮すると明言した。
また、ジョンソン英首相、バイデン米大統領、モリソン豪首相、ベトナムのファム・ミン・チン首相などとも面談し、中国の覇権主義に対抗する「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて緊密に連携していくことを確認した。
今年8月に公開されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書では「人類が気候変動を引き起こしていることに疑いの余地はない」と断定されている。現代世界では自然界のあらゆるものに人間活動の影響が及んでおり、大きく変化させている。
特に地球温暖化の進展によって、世界中で異常気象が発生している。集中豪雨や洪水、山火事、熱波や干ばつなどが頻発することによって、気候難民の発生や生物多様性の喪失などが世界的課題になっている。
今回のCOP26では二酸化炭素の排出量が多い石炭火力発電所の廃止が主要課題になっており、50近い国や地域が段階的に廃止を目指すという声明を公表しているが、肝心の日米中は加わっていない。
米国の巨大銀行バンク・オブ・アメリカの調査研究によると、米中技術戦争と貿易戦争の次には米中間で「気候戦争」が本格化し、向こう10年間にわたって国際政治の最重要テーマになると予測されている。その前提としてバンク・オブ・アメリカの推計では気候変動が経済に及ぼす影響は今世紀に69兆ドル(約7840兆円)に達し、エネルギー転換のために毎年4兆ドル(約450兆円)の投入が必要と予想している。
要するに新しい環境技術関連の市場規模は8千兆円規模と推計されているわけだ。そのために中国はいち早く国家主導で温暖化ガス排出抑制の最先端技術開発を強力に推進しており、その分野で世界を圧倒的にリードすることによって、米国に代わって世界経済の覇者になろうとしている。
その上に中国は地球温暖化対策で連携協力を図る条件として、中国の国内問題(人権問題、少数民族問題、香港統治、台湾問題など)について中国政府の立場を全面的に肯定することを求めている。中国は世界の温暖化ガスの約3割を排出しているにもかかわらず、先端的環境技術を武器にして「内政不干渉」を強硬に主張しているために「気候戦争」の発生が不可避とみなされている。
UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によると、近年の激烈な異常気象によって世界各地で気候難民が激増しており、すでに3千万人に達している。それらの気候難民は最終的に米国やEU(欧州連合)へと向かっている。気候戦争の今後の行方は観光産業にも大きな影響を与えることは必至である。
観光業界として地球温暖化や気候戦争によって生じるさまざまな事態を想定して、諸々の対応策を検討しておくことが必要不可欠であろう。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)