
1月20日に民主党のジョー・バイデン氏が米国大統領に就任した。78歳での大統領就任は歴代最高齢で、副大統領には女性、黒人、アジア系で初となるカマラ・ハリス氏が就任した。バイデン大統領は就任演説の中で繰り返し「unity:団結、結束」の必要性を強調した。トランプ前大統領が生み出した「米国の分断(民主党と共和党、地方と都市、保守とリベラルなど)」を正常化させ、uncivil war(礼節を欠いた戦争)に終止符を打つと宣言した。
しかし、大統領選におけるトランプ氏の得票数は約7380万票で、しかもトランプ支持者の約7割はいまだに「大統領選で不正があった」と信じているらしい。トランプ支持者の多くは、世界のゆがみや自らの苦境がグローバル化のせいとみなしている。
一方、民主党急進左派のサンダース上院議員とその支持者も基本的に反グローバリズムだ。つまり右派も左派も共にグローバル化に対して強い不満を抱いており、バイデン政権がグローバル化の方向に進むと、両派から攻撃されることになる。
バイデン政権の至上命題は、トランプ前政権の失政による世界で最悪のコロナ禍の惨状(感染者約2700万人、死者約46万人)をより良く改善することだ。コロナワクチンの成果が顕著に表れれば、バイデン政権の求心力は一気に高まるが、コロナ禍の沈静化に失敗すれば、不満が一挙に表面化する。
トランプ政権は「自国第一主義」を標榜(ひょうぼう)して、世界中を大混乱に陥れたが、バイデン政権は「国際協調主義」を基本路線にして、パリ協定(気候変動対処協定)復帰、世界保健機関(WHO)脱退撤回などを決定している。さらに中国の覇権主義に対抗するために、同盟国重視政策への転換を明確にしている。
日本は英国、カナダ、オーストラリアと共に最もコアな同盟国と位置付けられている。バイデン政権は日本に対して国防費を増額して中国に対する防衛力と抑止力を高めるように要求する可能性が高いといわれている。
トランプ政権は米中経済戦争を激化させたが、バイデン政権は台湾を含むインド太平洋地域の安定を脅かす行為に対して同盟国連携で対抗するとともに、新疆ウイグル自治区やチベット自治区、香港における人権や民主的価値を守り続けると言明し、対中強硬方針を表明している。
それに対して、中国は「核心的利益」に触れる問題では譲らない立場を明確にし、米国と同盟国の関係強化による「対中包囲網」構築を強くけん制している。
グローバル化で世界秩序が不安定化しており、米中の覇権争いが続くために日本は非常に難しい立場に置かれている。
米国は同盟パートナーであるが、中国は経済上の不可欠のパートナーだ。菅義偉首相は観光立国政策を重視しているが、観光立国の実現のためにはコロナ禍を踏まえて、アジアにおける諸々の面での安定が不可欠であり、日本は東南アジア諸国(ASEAN)などと連携して、強いリーダーシップを発揮すべきである。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)