【私の視点 観光羅針盤 268】コロナ禍克服とワクチン接種 北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授 石森秀三


 昨年12月に中国・武漢市で新型コロナウイルス感染症が発生してから1年がたった。米国ジョンズ・ホプキンズ大学の集計によると、世界の感染者は12月12日に累計で7千万人を超え、死者は159万人を超えた。国別の感染者数では、米国が最多の約1580万人、インドが約980万人、ブラジルが約680万人、ロシアが約260万人、フランスが約240万人、英国が約181万人と続き、日本は約17万8千人。

 幸い、世界各国でコロナワクチン接種が開始されている。世界で最初に新型コロナウイルスの国産ワクチン「スプートニクV」を承認したロシアでは12月5日から医師や教師を対象にした無料接種が始まった。英国でも米国製薬大手ファイザー社などが開発したワクチンを政府が承認し、8日から接種が行われている。米国でも連邦食品医薬品局がファイザー社のワクチンに対する緊急使用許可を出し、接種が始まっている。

 米国バイオ医薬品企業モデルナ社のワクチンも年内に接種が始まると予想されている。中国の製薬大手シノファーム社のワクチンもインドネシアやUAE(アラブ首長国連邦)などで接種が開始される予定だ。中国はコロナワクチンを開発途上国向けに大量供給する予定で、ワクチンを外交力強化に生かす算段である。

 日本では12月2日の参院本会議で「改正予防接種法」が全会一致で可決・成立している。新型コロナウイルス感染症のワクチンを国の費用負担で無料提供し、円滑に接種を進めるための法改正であった。日本政府とファイザー社は来年6月末までに6千万人分のワクチン供給で基本合意しているが、接種の時期は未定だ。

 ところが日本では11月以降の「第3波」が都市部から各地に広がっており、連日過去最多の感染者数を更新し続けている。そのために政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は、感染拡大地域での観光支援策「Go Toトラベル」などを一時停止すべきと提言している。

 西村康稔経済再生担当大臣も「感染拡大地域の医療ひっ迫を何としても回避しなければならない」と指摘している。現に、北海道旭川市の旭川厚生病院ではメガクラスターが発生し、12月12日現在で感染者281人、死者25人で国内最大クラスターになっている。すでに自衛隊の看護師チームが派遣され、医療支援が行われている。

 政府はこれまで「感染防止と経済再生の両立」を掲げて施策を進めてきた。特に菅首相は観光支援策「Go Toトラベル」事業が地方経済再生に資すると見なして重視してきた。しかし日本医師会の中川俊男会長は師走が感染拡大防止の正念場であるために国民に旅行の再考を求めた上で「感染防止が最大の経済対策」と主張している。

 短期集中で感染防止を図るためには事業者への営業自粛要請が必要になるが、政府からの補償は不可欠である。年末年始に日本各地で医療崩壊が生じないように周到な対策が求められている。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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