9月3日、香川県高松市内で6歳と3歳の姉妹が車に15時間放置されて亡くなるという痛ましい事件が発生した。26歳の母親が2児を車に残したまま、飲食店3軒をはしごして知人宅に泊まり、その間に2児は38度の炎天下の車中で熱中症になり、心肺停止に至ったとのこと。灼熱(しゃくねつ)の車内で母親を待ち続け、心肺停止で亡くなった幼児のことを思うと涙が止まらない。
奇しくも、2児が亡くなった3日に国連児童基金(ユニセフ:UNICEF)は、先進・新興国38カ国に住む子どもたちの幸福度を調査した報告書を公表した。
ユニセフは国連機関の一つで、途上国の子どもの生活、保健衛生、教育の向上を目的に活動している。また「子どもの権利条約」を規範にして、子どもの権利の保護も使命としており、2000年からは先進国の子どもの状況を分析した報告書を毎年公表している。
今年の報告書ではコロナ禍以前の統計データが使われているが、「精神的な幸福度」「身体的健康」「学力・社会的スキル」の3分野で評価を行っている。
子どもの幸福度の「総合」順位でベスト3は、(1)オランダ(2)デンマーク(3)ノルウェー―の順、日本は38カ国中の20位で、米国は36位。日本は「精神的な幸福度」分野で38カ国中の37位。この分野は生活満足度と自殺率で指標化されており、日本の子どもは生活満足度の低さ、自殺率の高さから最低レベルの評価になっている。
日本の将来を担う子どもたちが「精神的な幸福」をあまり感じていないのは問題なので、私は長年にわたって「旅育推進法(仮称)」の必要性を提唱し続けている。旅行を通して、子どもたちがさまざまな未知の自然や人間、未知の物事にふれることによって、生きていることの幸せを感じられるように配慮するのは「大人たちの責任」であろう。
幸い、政府は08年から「子ども農山漁村交流事業」を実施している。当初は農林水産省・文部科学省・総務省の3省連携であったが、現在では内閣官房と環境省も加わって連携事業を毎年実施している。
子どもたちが農山漁村で宿泊体験活動を行うことを支援する事業で、農林漁業体験や自然体験活動などを通して、子どもたちの学ぶ意欲、自立心、思いやりの心、生きる力を育むとともに、交流創出による地域の再生や活性化への貢献が意図されている。
コロナ禍以前の政府の観光立国政策ではインバウンドの拡大に最重点が置かれてきたが、コロナ禍の収束は容易ではないために、「子ども農山漁村交流事業」のさらなる充実化を図ることが求められている。
極めて単純なことであるが、子どもたちが精神的に幸福を感じられない国に「輝ける未来」があるとは想定し難い。子どもの立場で「日本の未来を考える」こともまた大切であり、観光産業の関係者はもっと子どもたちのために観光や旅行を生かす方策を考えるべきであろう。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)