世界の国々でいま新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の拡大を抑え込むための厳しい闘い(コロナ戦争)が繰り広げられている。米国ジョンズ・ホプキンズ大学の集計によると、4月26日時点でのコロナによる世界全体の死者は約20万人、感染者は280万人を超えている。
感染者10万人以上の国々は、米国94万、スペイン21万、イタリア19万、ドイツ15万、英国14万、フランス12万、トルコ10万の順。日本の場合には、死者は385人、感染者は約1万4千人である。
コロナ感染大国のリストで明らかなのは、いずれも観光大国である点だ。この連載欄で昨年9月28日に、スイスの非営利財団世界経済フォーラム(WEF)が2年ごとに公表している「観光競争力ランキング」を取り上げた。19年版の総合競争力ランキングのベスト10は、(1)スペイン(2)フランス(3)ドイツ(4)日本(5)米国(6)英国(7)オーストラリア(8)イタリア(9)カナダ(10)スイス―の順であった。
1989年の東西冷戦終結後に世界的にヒト、モノ、カネ、情報のグローバル化が進展した。国際観光分野でもUNWTOの統計によると、90年の全世界の国際観光客数は4億3千万人、2018年には14億人に増加している。要するにヒトやモノのグローバル化に伴って、コロナも一挙にグローバル化したわけだ。
しかも現在の世界ではヒトとモノの移動がストップしたことによって世界経済が大打撃を被っており、それに伴って株価の大暴落が生じてカネの流れがストップ状態になっている。ただし情報だけは瞬時に全世界を駆け巡っており、その結果として世界的にパニックを増幅させている。
コロナ禍は目に見えないウイルスが原因なので、万人に生存危機・健康危機をもたらす。そのために感染拡大を抑え込むことは不可欠で、外出制限、徹底的な検査、データに基づく治療法とワクチンの開発が必要である。世界各国で緊急事態宣言が発せられ、外出制限や営業制限や就業制限などの実施によって、世界的に経済危機・生活危機が生じている。
日本でも政府による緊急事態宣言後に外出自粛やイベント自粛、買い物自粛などが常態化し、その結果として広範囲に及ぶ経済危機が生じている。今後は企業倒産や従業者解雇などによる生活破綻が顕在化していくことになる。政府は緊急経済対策のために巨額の予算投入を図っているが、コロナ戦争の終結は見通せない。
「経済は命があれば取り戻せる。病気や死という痛みを最小限に抑えるために『経済の痛み』を受け入れるべきだ」という賢者の意見は傾聴に値する。されど、多くの国民や企業にとっては、経済の痛みをできるかぎり和らげるためのさまざまな公的支援策が不可欠だ。
アベノマスクの配布に象徴されるような首相官邸の機能不全こそが、国民にとっての最大の危機なのかもしれない。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)