【私の視点 観光羅針盤 195】シンギュラリティ?それがどうした! せとうち観光推進機構事業本部長 村橋克則

  • 2019年6月10日

 小学生の頃に夢中になったテレビアニメ「ルパン三世」。強く印象に残っている回がある。そのあらすじは次のようなものだ。

 ルパン逮捕を宿願とする警視庁はFBIからコンピューター技師ゴードンを招く。彼は「コンピューターの前ではいかなる頭脳的犯罪も不可能だ」とルパン逮捕に自信満々。ルパンの思考や行動のパターンは全てインプットされ、犯罪計画はことごとく予測されてしまう。逮捕も時間の問題と思われた。

 しかし、絶体絶命のルパンを救ったのは彼自身の気まぐれ。そう、瞬間の「ひらめき」にまかせて急きょ、計画を変更したのだ。こうして、まんまとコンピューターの裏をかき、命拾いをしたというストーリーだ(急にひらめいたはずなのに、逃走用のグライダーが用意されていたことに子どもながら違和感を覚えたが)。

 「AI(人工知能)の進展によって9割以上の仕事が世の中から消える」とか「2045年には人工知能と人間の能力が逆転する(シンギュラリティ)」など、近年、コンピューターが私たち人間の生活に及ぼす影響について、危機感をあおるような話題でやかましい。しかし、私が関わっている観光業界についていえば「恐るるに足らず」といったところか。

 観光の価値は非日常や異日常体験を通じた「感動」の提供である。人が心を動かされるのは、期待や想定を超えた商品やサービスに触れた時で、ある種のハプニングすらサプライズとして、感動を呼び起こす。その予測不可能性こそが旅の醍醐味(だいごみ)であり、サービス提供者側の腕の見せどころだ。

 ラグジュアリーブランドの代名詞ともいえるリッツ・カールトンホテルでは、スタッフ一人一人がお客さまの意向を汲み取り、その場に応じた最高のサービスが提供できるようにと、現場に最大限の裁量権を与えているという。従業員の「ひらめき」を最大の武器にしているのだ。もちろん、その「ひらめき」を誘発するために、会社の方針やサービスに対する考え方を徹底的に浸透させる仕組みを回す努力は怠らない。

 「感じ取る」「空気を読む」「気を利かす」といったスキルは、AIとは最も相性が悪そうだ。ディープラーニングがいかに進化しようが、蓄積された過去データの中には想定内の答えがあるだけで、感動を生み出す「ひらめき」は見つからない。

 一方で、機械化や自動化は観光業界にとって、非常に重要なテーマだ。人手不足による廃業や過重労働が課題となる中、省力化やスピード化につながる技術は積極的に導入し、働き方改革を推し進めていってほしい。

 そのことで、働く人に時間的・精神的余裕が生まれれば「感じ取る」「空気を読む」「気を利かす」ことへの備えができる。

 神奈川県のある旅館では、IT化によって、働き方改革を推し進めた結果、週に4日のみの営業に切り替えたにも関わらず、売り上げが倍になったという。新しい技術を恐れるのでなく、上手につきあって、お客さまへの提供価値向上や働く人の幸せにつなげた好事例だ。

(せとうち観光推進機構事業本部長)

 
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