【私の視点 観光羅針盤 171】世界水準のDMOとは 大正大学地域構想研究所教授 清水慎一


 観光庁に「世界水準のDMOのあり方に関する検討会」が設置された。「明日の日本を支える観光ビジョン」に掲げられた「世界水準のDMOの形成、育成」に関し、持続可能な観光立国実現の観点から、そのあり方について論議する。

 筆者も有識者の1人として参加した。何回かの検討会が開かれ、各地のDMOのヒアリングを実施しながら、年明けに論点整理をして、今年度中に中間とりまとめを行う予定と、聞いている。

 周知のように、観光庁はDMOの登録要件として、(1)多様な関係者の合意形成(2)データに基づく戦略構築(3)一元的な情報発信(4)法人格と人材(5)安定的な財源確保―を掲げる。現在まで86のDMOが登録されている(7月末現在)。

 しかし、これらの要件はあくまで形を整えるものであって、これだけでは世界の人から選ばれ、訪れてもらう世界水準のDMOにはなれない。まして、実態は従前の観光協会の焼き直しみたいなDMOなどは論外である。

 そんな形だけのDMOはほとんどが人事、予算に関し行政主導だ。すぐかわる行政からの出向者が単年度予算に追われ、思い付きで口を出す首長や行政担当者に翻弄(ほんろう)されている。だから、事業は集客中心で豊かな地域づくりにつながらない。

 さて、世界水準のDMOとは世界から選ばれるブランド観光地域になるために必要な戦略を機能面、組織面で達成していることだという観点から、次の2点に持続的に取り組むべきだと、筆者は考える。

 まず、DMOの役割は誘客により「住んでよし、訪れてよし」の豊かな地域づくりを推進する司令塔という認識を持つことだ。顧客満足と住民満足を最大にし、かつ両立させるために、旅行消費額の増加による地域経済活性化、住民と観光客との交流を通したにぎわいの創出による地域社会活性化を実現する滞在交流型観光を展開しなければいけない。

 次に、世界の人が訪れる国際競争力の高い魅力ある観光地域を創り上げるために、世界に通用する地域独自の価値(ブランド価値)を確立し、最大限生かすことだ。具体的には、インフラや景観、食、宿泊施設、滞在プログラム、2次交通、ワンストップサービスなどさまざまな場面で、ブランド価値を確実に提供しなければいけない。

 このような事業に戦略的、持続的に取り組むDMOが世界水準になる。これについては、かつて観光庁に設置された「国内外から選好される観光地域づくりの推進に関する検討会」の報告書が参考になる。

 最後に「ジャパン・ツーリズム・アワード」大賞を受賞した雪国観光圏など国土交通大臣認定の観光圏は、これらの取り組みに関し中期のロードマップを定め、毎年着実に事業を実施して、世界から選ばれるブランド観光地域を目指していることを付記したい。

(大正大学地域構想研究所教授)

 
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