【私の視点 観光羅針盤 161】住民の思いつなぐブランディング 大正大学地域構想研究所教授 清水慎一


 雪国観光圏は、新潟県湯沢町、十日町市、南魚沼市、魚沼市、津南町、長野県栄村、群馬県みなかみ町の3県7市町村で構成される。2008年に国土交通大臣の認定を受け、日本版DMO登録法人である「一般社団法人雪国観光圏」により運営されてきた。

 雪国観光圏の10年の取り組みを一言で表すと、ブランディングに尽きる。「エリアの独自の価値をブランドとして創り上げなければ、ますます激化する地域間競争には勝てない」という代表理事の井口智裕さんたちの強烈な問題意識によるものだ。

 彼らは、「8千年前から続く雪国文化」をブランドの軸として、新たなストーリーの構築に取り組んだ。これによりスキー客だけではない新たな客層を掘り起こすことで、地域住民の誇りを取り戻すとともに、持続可能な地域づくりをもくろんだ。

 具体的には、まずこのエリアを日本屈指の「雪国」と呼ぶにふさわしい、世界に誇れる独自の価値を追求した。その結果、「真白き世界に隠された知恵に出会う」というコンセプトにたどり着いた。次に、この雪国の知恵に最も共感してくれる顧客(ペルソナ)を探した。

 マーケティング調査により、「都内に住む40歳独身管理職」という女性像に出会う。その次に、こんなコアな顧客が満足する観光資源へのチューニング作業に取り掛かり、最終的に出来上がったエリアのストーリーや価値、品質を持続可能な形にしてきた。

 この10年間、DMOに結集する事業者や団体、行政機関は、井口座長のリードのもとこのような密度の濃い議論を積み重ねてきた。しかし、そこに毎月出席してきた筆者から見ると、それはキャンペーンやイベントに終始する既存組織との戦いの連続だった。

 そんな場面でも井口さんは動ぜず、いつもこう答えていた。

 「地域と顧客との信頼関係構築のために、住民が思いを持って取り組むのがブランディングだ。先行きに漠とした不安が広がっている時代にあって、一過性のキャンペーンは虚しくなるだけだ」と。

 幸い、雪国文化に根差した滞在プログラムも増え、上質なインバウンド観光客を確実に獲得してきた。コアな顧客の信頼を得るために進めてきた宿泊施設の品質認証「サクラクオリティ」や食の認証「雪国A級グルメ」も新潟県全域から全国に広がってきた。

 今般、このような雪国観光圏のブランディングの取り組みに対し、「ジャパン・ツーリズム・アワード」大賞が贈られた。10年間ぶれずに取り組んできた井口さんをはじめ関係者に対し、ずっと伴走してきた筆者は心から祝意と敬意を表したい。

 雪国観光圏の取り組みこそ、世界水準に向かってDMOが進むべき道だと、筆者は確信する。

(大正大学地域構想研究所教授)

 
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