
DMOの役割は「住んでよし訪れてよし」の持続的な観光地域づくりを観光地経営の視点に立って実現することだ。
司令塔として観光客を呼び込むとともに、観光がもたらす効果を豊かな地域づくりにつなげることにより、住民と観光客の満足度の両立を図る役割だ。
そのために、DMOは観光地域づくりのミッションを明確に掲げる。同時に、それを確実に達成するために必要な事業に関して、KPI(主要業績指標)を設定する。ミッション達成に向けて事業プロセスが適切に実行されているか、評価するためだ。
KPIは、本来さまざまだが、DMOの役割を踏まえれば「住んでよし」「訪れてよし」の両面から設定すべきだ。しかし、ほとんどのDMOは「訪れてよし」の指標である「延べ宿泊者数」「消費額」「満足度」「リピーター意向」「ウェブアクセス数」などしか掲げていない。
観光庁の手引きには、「地域住民の観光地域づくりに対する満足度をKPIとして設定することも大事だ」と書かれているが、「住んでよし」の指標はほとんど設定されていない。既存観光協会を母体にしたDMOが多く、「訪れてよし」の指標がなじみやすいせいか。
しかし、外国のDMOは、持続的な観光地域づくりのためにさまざまな指標を工夫している。例えば、日本版DMO推進研究会で講師を務めた辻野啓一さん(元JTBハワイ社長)によれば、ハワイのDMOである「ハワイ州観光局」(HTA)の指標は実に多様だという。
HTAは、「観光の品質向上、自然資源や文化の継続維持、州民の生活水準向上への貢献」などのミッションを掲げる。その実現のために、「観光客の消費高、滞在日数」など顧客サイドのKPIだけではなく、「住民感情意識調査」による住民幸福指標も設定している。
「観光が問題よりも利益をもたらしているか」という質問に対して「YES」と答える割合だ。2014年は64%だったが、20年まで80%に引き上げる目標だという。そのために、住民がどんな観光客を望んでいるか、徹底的に調査し、事業を実施する。
わが国でも、前回本欄で述べたようにインバウンド観光客の増大に伴い、あちこちの観光地で観光公害が叫ばれるようになった。こんな現状を踏まえると、DMOは「訪れてよし」の指標だけではなく、「住んでよし」の指標も真剣に検討すべき時期が来た。
「住んでよし訪れてよし」というあるべき姿を実現すべきDMOの役割からすれば、遅きに失した感があるが、世界水準のDMOになるためにも、関係者の一層の論議を期待したい。
(大正大学地域構想研究所教授)