【私の視点 観光羅針盤 134】広域DMOの真価が問われる 清水慎一


 観光庁による日本版DMOの登録が始まった。いまのところ41だが、年度末にかけて続々登録されるという。併せて、来年度の予算で新設される予定の「広域周遊観光促進のための新たな観光地域支援事業」の枠組みも見えてきた。この事業では、登録DMOが地域のインバウンドなどの周遊・滞在促進により観光地域づくりを進めるための事業計画に基づく取り組みに対して、国が直接支援する。これにより、DMOの自主的な運営が尊重される。画期的な枠組みといえる。

 一方、この事業では各DMO(広域、地域連携、地域)が策定する事業計画については「国とブロック内各地域の協同による連絡調整会議」で全体の方針を定めて調整される。観光客の広域周遊観光を効果的・効率的に促進するための全く新たな枠組みだ。

 このような枠組みではDMO相互の役割分担、とりわけ域内のDMO(地域連携、地域)の事業を調整し、リードする広域DMOの役割が極めて重要だ。広域DMOがマーケティングやマネジメント機能をきちんと発揮しなければ全体の成果が上がらないからだ。

 例えば、広域の連絡調整会議では域内の観光資源の特性の分析などを通じた主要なターゲット層の設定とそのニーズの分析、ニーズに対応した観光コンテンツの充実や情報発信のあり方が議論されなければならない。このためには広域のマーケティングが不可欠だ。

 また、インバウンド観光客などの滞在を促進するにはアクセス環境の改善が必要だ。そのためには、連絡調整会議において空港など主要ゲートウエーと地域の拠点間、地域の拠点間同士を結ぶハード・ソフトを含めた交通アクセスの充実の方向性も議論されなければいけない。そこでも広域のマネジメントが不可欠だ。

 このように、広域DMOがこれまで以上に高まる役割を十分果たすには、広域のマーケティングに関する専門人材は必須だ。また、多数の自治体を束ねた合意形成を成し遂げる人材も必要だ。特に交通問題は関係者が多く、利害調整には然るべき人材がいる。

 問題は、このような人材を安定的に確保できるかだ。広域DMOのモデル「せとうちDMO」事業本部長の村橋克則さんは、先日の「日本版DMO推進研究会」で「持続的な仕組みづくりには中核人材のプロパー化と安定的な予算の確保が課題だ」と語っていた。

 今度の支援事業は、日本版DMOが構築の時代からいよいよ本格的な稼働の時代に入ったことを示している。各DMOがリーダーのもと、域内の合意形成を図りながらマネジメント機能とマーケティング機能をきちんと発揮できるか、その真価を問う試金石になる。

 とりわけ、広域DMOがさまざまな課題を克服して、今までの行政主導による単なる広域宣伝協議会から脱却できるか、大いに注目される。広域DMOのリーダーの力量が問われる。

(大正大学地域構想研究所教授)

 
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