文化財や伝統文化を用いて地域活性化を図るために2年前から「日本遺産」の認定が行われている。地域の歴史的経緯や風土に根ざした伝承・風習などを踏まえたストーリーが「日本遺産」として認定されており、ストーリーを語る上で不可欠な魅力溢れる有形・無形の文化財をパッケージ化して、総合的に活用する取り組みが奨励されている。
これによって地域のブランド化、地域住民のアイデンティティの再確認、情報発信、人材育成、環境整備などを効果的に進めることが期待されている。
日本遺産はすでに37件が認定されているが、それらを地域別に分類すると、日本の北端3道県(北海道・青森・岩手)と南端3県(沖縄、鹿児島、宮崎)では、日本遺産が1件も認定されていない。たまさかであろうが、奇しくも日本の北端と南端で動きが鈍いわけだ。
北海道では現時点でまだ1件も認定されていないが、かつての道内外の北前船寄港地の複数自治体が連携して「シリアル型(複数の市町村にまたがるストーリー型)日本遺産」認定を目指す動きや、江差町による「地域型(単一の市町村内で完結するストーリー型)日本遺産」を目指す動きがある。
近年北海道で「炭鉄港」をテーマにして産業遺産の活用による「シリアル型日本遺産」を目指す動きが活発化している。
既に北海道遺産として選定されている「空知地域の炭鉱関連施設と生活文化」をベースにしながら、炭鉱(空知地域)のみならず、石炭を運ぶ鉄道(旧幌内鉄道)、石炭による製鉄(室蘭)、石炭を運び出す港湾(小樽)などとの連携による各地域の文化財の総合的な活用が意図されている。
要するに「炭:空知で石炭を掘り出し北海道開拓を先導」「鉄:室蘭で空知の石炭から鉄や鋼を作って日本近代化に貢献および北海道で最初の鉄道敷設」「港:小樽が北海道のゲートウェイ」、という「炭鉄港ストーリー」で北海道の産業遺産を保存・活用し、地域活性化に結び付けようとする運動だ。
民産官学の協働で運動が進められており、15年に世界文化遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産:製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産の一つである尚古集成館(鹿児島県の島津興業が所有)との連携も図られている。
北海道の旧産炭地域は日本の近代化に大きく貢献したが、現在は元気を失くしている。観光産業のパワーで「炭鉄港」連携の成功をぜひとも後押ししてもらいたい。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)