【私の視点 観光羅針盤76】人を大切にする経営 石森秀三


私の視点 観光羅針盤

 道内主要空港の民営化を検討している北海道の経済界は、2030年までに来道外国人観光客数を850万人に増やすことを提唱している。15年度の来道外国人観光客数は208万人だったので、今後15年間で4倍増を目指すわけだ。

 ところが高い稼働率が続く札幌市内のホテルでは客室清掃員不足が深刻化しており、空室がありながら「売り止め」を行うところも出ている。来道インバウンド200万人ですでに人手不足の状況が生じており、抜本的な改善が不可欠だ。

 インバウンド急増に伴い日本各地で客室清掃員だけでなく、宿泊業界全体として人手不足が深刻化している。そういう厳しい状況の中で、宿泊業を総合的に学んだプロの人材が地元定着できるように現状打破を図る動きが生じている。

 道内宿泊業大手・野口観光の野口秀夫社長は、宿泊業に特化した職業訓練校を設立して、宿泊業を総合的に学んだ即戦力となる人材を増やすことによって宿泊業界に貢献することを構想している。

 具体的には苫小牧プリンスホテル(休館中)を全面改装して職業訓練校を設立し、学費は無料で、在学中も給与を支払うとのこと。卒業後は野口観光以外への就職も可能にすることで宿泊業界への貢献を果たす構想である。

 日本には数多くの学会が存在するが、14年に「人を大切にする経営学会」というユニークな学会が設立されている。初代学会長は法政大学の坂本光司教授。08年に「日本でいちばん大切にしたい会社」と題する本を出版し、一躍注目を浴びた中小企業経営論の専門家である。
坂本教授は業績重視・シェア重視・技術重視の経営だけでなく、人の幸せを重視する経営の実践こそが、結果として企業に安定的な好業績をもたらすという経営学の普及を目指して学会を立ち上げた。

 観光は本来「幸せ」を生み出す営みであり、ゲストもホストも関係者すべてを幸せにするものであるはずだ。観光客の量にこだわり過ぎて「みんなを不幸せにする観光」を生み出してはならない。

 さらに観光立国を成功させるためには、若者が旅行業や宿泊業のプロとして誇りをもって、大都市圏だけでなく日本各地で仕事に従事できる環境を整えることが不可欠だ。

 そういう意味で若者に希望を与えることのできる専門職業教育の充実を図ろうとしておられる野口観光・野口社長の「人を大切にする経営」にエールを送りたい。

(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

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