【私の視点 観光羅針盤104】イタリアの小さな村 清水慎一

  • 2017年6月18日

 雪国観光圏の井口智裕さんなど志を同じくする仲間たちは、毎年春海外研修旅行に行く。すべて自費だ。昔、由布院温泉の中谷健太郎さんたちが、小さな村の温泉の「未来像」を探るためにヨーロッパ研修旅行に出かけたという前例に倣ったと、聞く。

 雪国観光圏の同志として、5年前から筆者も参加している。もちろん自費で、チロル、サンセバスチャンなどを訪れた。今年はどこにしようかと、幹事の高橋五輪夫さんから相談があったので、かねがね気になっていたイタリアの小さな村を提案した。

 気になっていたというのは、陣内秀信さんの「イタリア 小さなまちの底力」や宗田好史さんの「なぜイタリアの村は美しく元気なのか」などを読んで、元気な村を体感したかったからだ。早速、つてをたどって、ポルティコ・デイ・ロマーニャ村を訪れることにした。

 ボローニャに近いフォルリという駅から車で1時間の、アペニー山脈の山あいにある村だ。カンパニリズモという言葉の通り、教会の鐘の音が届くくらいの狭いエリアで、中世の街並みを残している。脇の川には1312年にできたという石橋が架かっていた。

 住民はわずかに350人。第2次大戦以前は2千人近い住民がいたというから、どこでも人口減少と空き家が悩みだ。そんな故郷に、結婚で戻ってきたマリーザ・ラッジという女性がレストランをオープンしたのが、元気を取り戻した始まりだ、という。

 1985年には古い修道院を改築して、ホテルなどをオープンするとともに、秋の収穫祭をはじめ、フード・フェスタなどイベントを次々に開催した。外国人も来るようになったので「初めてのイタリア語」教室も開設した。全て自力というのがすごい。

 われわれが訪れた時は、イギリス人のヨガの団体やハンティングを楽しむスイス人女性が、村内に点在するホテルに滞在していた。夕ご飯は、レストランに集まり一堂に会して取る。見知らぬ人同士の会話が弾み、村人の歌や踊りが出る楽しいひとときだった。

 ちなみに、点在した空き家をホテルとして活用するやり方は、イタリアの各地で盛んに行われている。「アグリツーリズモ」では宿泊施設に限界があるからだという。こんな村々が連携してアルベルゴ・デイフューゾという協議会も設立された。この村も、2007年に加盟した。

 たった1人の女性とその家族が始めた活動は、今やイベントの度に数千人の観光客が訪れ、宿泊客も1万人近くに達する観光業に成長した。行政に頼らずに、住民自らが来訪者との元気なネットワークを世界に広げる活動は、観光地域づくりそのものだ。

 イタリアの小さな村の元気な暮らしを体感した16人の同志は、雪国における観光地域づくりの「未来像」を改めて再確認した。

(大正大学地域構想研究所教授)

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