【私の視点 観光羅針盤100】学芸員は「一番のがん」か 石森秀三


 スイスの世界経済フォーラム(WEF)が公表した「旅行・観光競争力レポート2017」によると、日本は総合評価で世界ランキング第4位に位置づけられ、個別評価指標では文化資源が高く評価されている。

 日本の文化観光が世界的に高く評価される中で、山本幸三大臣は4月16日に開催されたセミナーで「爆買い的な観光は終わり、質が変わってくる。文化や伝統、歴史をしっかりと理解してもらうような観光が本物で、一番長続きする」と述べた。

 また、外国人観光客への文化財の説明・案内が不十分との認識から「一番のがんは文化学芸員。この連中は普通の観光マインドが全くない。この連中を一掃しないと駄目だ」と発言して、全国的に厳しい批判を浴びた(一番批判されるべきは「がん」で苦しんでいる人々やその家族に対する配慮のない点である)。

 山本大臣は地方創生担当相を務めており、東京一極集中を是正して、地方の人口減少に歯止めをかけ、日本全体の活力を上げることが主たる任務だ。インバウンド激増を背景にして、地方におけるインバウンド観光の不備を批判しているが、私は北海道博物館協会会長を務めているので、地方の博物館が置かれている苦しい状況を理解されていない点について残念至極に感じている。

 「日本は観光資源や観光魅力の宝島」と私自身は高く評価している。日本は明治期以降に近代化を見事に達成したテクノロジー大国であるが、その一方で日本の至るところで伝統的な自然資源や文化資源や人財を大切にしてきた国だ。

 近年、日々刻々に貴重な日本の伝統的な自然資源や文化資源や人財が損なわれつつある中で、それらを大切に守り、伝える努力を行っているのは各地に存在する博物館などである。しかし日本の館園の多くは館員数も予算額も少ないために十分に役割を果たせていないのが偽らざる現状だ。

 地方創生を実現するためには、1人でも数多くの若者が地方で生きることに誇りをもつことができ、安心して働くことのできる環境が不可欠だ。地方の博物館は地域の貴重な自然資源や文化資源を守り、伝えるだけでなく、地域における「結衆の原点」として重要な役割を果たしている。

 地方創生相は軽々に学芸員を蔑む前に、地域の学芸員が置かれている苦境を十分に理解した上で、より良く仕事を展開できるように、さまざまなかたちでの支援方策を真剣に検討すべきである。

(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
新聞ご購読のお申し込み

注目のコンテンツ

第37回「にっぽんの温泉100選」発表!(2023年12月18日号発表)

  • 1位草津、2位下呂、3位道後

2023年度「5つ星の宿」発表!(2023年12月18日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第37回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング ベスト100」(2024年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト100を発表!

2023 年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング ベスト100」(2024年1月22日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒