【特集 旅館の生産性向上策】変わり続ける 創業200年へ 京都市・綿善旅館

  • 2022年7月7日

おかみ 小野雅世氏

スタッフの改善意欲引き出す 納得できる働き方、休み方に

 京都市の綿善旅館は、天保元年(1830年)創業の老舗だ。客室数は27室。従業員数は正社員20人、パート4人。国内外の観光客に加え、修学旅行生を受け入れている。生産性向上への取り組みでは、観光庁の実証事業でモデル施設に選ばれ、首相官邸で成果を発表したこともある。業務改善を進めた矢先、コロナ禍にみまわれてしまう。昨年12月には代表取締役に就任し、「若おかみ」から「おかみ」になった小野雅世さんにこの10年の改革とこれからについて聞いた。

 小野さんが、大手銀行勤務、結婚を経て、父、小野善三さんが経営する綿善旅館に入ったのは2011年。パートで家業を手伝うぐらいの気持ちだったが、働くうちに現場改革にのめり込む。スタッフとのコミュニケーションを深め、不満や問題意識、改善提案を引き出すと、一つ一つ業務改善を実践に移していった。

 15年には、観光庁、日本旅館協会の生産性向上実証事業の募集に手を挙げ、全国で8軒のモデル旅館・ホテルの一つに選ばれた。派遣されたコンサルタントの助言を受け、例えば、スタッフ一人一人が持つ業務スキルの内容とそのレベルを図表化したマップを作成し、誰がどの業務に対応できるかを整理。部署を横断した応援態勢を構築し、業務負担の平準化、労働時間の削減につなげた。フロントと客室係などの顧客情報の共有では、経費を抑えたIT化として、タブレット端末とLINEを活用し、内線電話連絡や館内移動の無駄を減らした。

 さらに業務改善を推し進めることになったのが、社員の年間休日数の見直し。小野さんは17年6月、安倍晋三首相(当時)の前で生産性向上の成果を発表した。メディアにも注目され、ある取材に対し、社員の年収1千万円を将来の目標として掲げた。業務改善と並行して、売り上げ、利益を拡大し、給与水準を引き上げる。しかし、その記事を読んだ若い社員には、「まずは休みを増やしてほしい」と言われた。

 当時の休日数は年間83日だった。休日は増やしたいが、人件費に直結する難題。「社長とは激論になった。待遇を改善しないと、これからは優秀な人が集まらない。業務を見直せば絶対できる」。スタッフ数は増さず、休館日は設けない。各現場のスタッフがプロジェクトチームをつくり、業務、サービスの課題をA3用紙に書き連ね、改善策をまとめた。試行期間を経て、19年4月から週休2日制とほぼ同等の年間105日に引き上げた。「給与アップには個々の査定などいろいろな要素があるが、休日数の増加は平等で目に見える。社員の反響は大きく、働き方の見直しにも前向きだった」。

 17~19年の集客はおおむね順調で、年間の売上高は約3億円で推移した。しかし、コロナ禍に直面する。宿泊客数の構成比は、国内の一般客が2割、修学旅行が6割、外国人客が2割だが、修学旅行とインバウンドが途絶え、国内観光客も激減した。直近の年間売上高は約7千万円に落ち込んだ。今年の春は感染状況が落ち着いたことで、修学旅行が戻ってきたが、全体の集客は依然、コロナ前には程遠い状況だ。

 集客、売り上げは確保したい。しかし、20年秋以降、年末年始、ゴールデンウイーク、夏休みの書き入れ時でも、客室稼働率を50%に抑える方針をとっている。修学旅行は別だが、当日の宿泊全てが1泊2食のプランだった場合、満室の予約は取らない。きっかけはGo Toトラベル。事業の実施時、ここで巻き返そうと、売れるだけ売ったが、業務に追われるスタッフの疲弊は大きく、サービスの低下、顧客満足度の低下が懸念された。

 「スタッフ自身も不満足な働き方、お客さまもサービスに不満足。これは追求している経営とは違う。繁閑差、固定費を考えるとスタッフはそうは増やせない。コロナ以前にも同じような状況があり、稼働率を抑えるよう訴えてきたが、ようやく幹部社員の理解が得られた。スタッフには自分で納得できるサービスを提供してほしい。質の高いサービスをきちんと価格に転嫁していこう」。

 綿善旅館は、2030年に創業から200年の節目を迎える。次の100年、さらにその先を見据えた宿づくりを模索している。「生産性向上に取り組んだ最大の成果は、変わらないことにスタッフ自身が違和感を覚えるようになったこと。全員がそれぞれに問題点を探し合い、業務改善を提案することが日常的になった。今、大正15年生まれの祖母から昔の綿善旅館のことを聞き取っていて、何かの形にまとめようとしているが、その歴史というのは当館の代えがたい価値。それを次の100年につなげるためにも、これからも変わり続けていきたい」。

綿善旅館(京都市中京区)

小野さんのおかみ就任と、小野さんの夫、重見匡昭さんの社長就任を祝い、スタッフそろって記念撮影(昨年12月)

 
新聞ご購読のお申し込み  ベストセレクション

 メルマガ申し込み

注目のコンテンツ

第35回「にっぽんの温泉100選」発表!(2021 年12月20日号発表)

  • 1位草津、2位下呂、3位別府八湯

2021年度「5つ星の宿」発表!(2021年12月20日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」は?

第35回「にっぽんの温泉100選・選んだ理由別ベスト100」(2022年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト100を発表!

2022年度「投票した理由別・旅館ホテル100選」(2022年1月17日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒

観光経済新聞の人材紹介

  • 旅館・ホテルの人材不足のお悩み無料相談はこちら
Visit Us On FacebookVisit Us On TwitterVisit Us On YoutubeVisit Us On Instagram