【特別座談会】ウィズコロナ時代の新たな日本の観光地づくり

  • 2020年11月19日

国内外に向け「安全・安心」の見える化を

 Go Toトラベルキャンペーンの開始で回復の兆しを見せる観光業界。一方、コロナ禍終息の見通しは立っていない。ウィズコロナ禍での今後の観光のあるべき姿とは、またどう行動すべきなのか。業界をリードする4氏に集まっていただき、語っていただいた。
(10月12日に東京の日本観光振興協会で、聞き手は本社・長木利通)

座談会の様子(大西氏はリモートで参加)

 

 ――現在の市況についてどう捉えているか。

 冨樫 7月22日からGo Toトラベルキャンペーン(Go To)を開始したが、東京都の除外の影響もあり出足は必ずしも良くなかった。当時は地域共通クーポンも準備段階で、まだ国内全体が旅行をする状況、雰囲気ではなかった。また、8月はお盆の時期に東京を中心に感染者が増えたことで、地方では新型コロナに対する捉え方は厳しかった。9月に入ると感染者数も横ばいに。4連休を契機として、人が動きだした。10月1日には東京が解除され、地域共通クーポンが始まったことで一気に人の動きが活発化してきた。

観光庁 観光地域振興課長 冨樫篤英士氏

 

 久保田 Go To開始時点は国民が旅行することで感染を拡大してしまうのではという心配を抱えていたが、9月の4連休から動き始めた。観光以外の他産業への経済的な波及効果はすぐに出てはいないが、これからじわじわ浸透してくるはずだ。一方で、Go Toは定率の補助であることから、補助額を多く得られる値段が高い旅館の利用が集中しているといわれている。宿泊単品だけでなく、旅行会社が鉄道、航空などとセットにした商品の販売へと軸足を動かすことで、選択肢の幅、宿泊施設の利用の幅はぐっと広がるはずだ。

日本観光振興協会 理事長 久保田 穣氏

 

 篠原 経済と感染リスクの両立を観光庁と話しながら歩いてきた。旅自体にリスクはなく、旅先でどう危険リスクを回避できるかがポイント。政府の感染予防対策ガイドラインが定着してきた結果、感染者数は抑えられ、旅行者は安心を覚えた。このまま安定した状態が続くことが理想。今の観光の盛り上がりを鈍化させることなく、しっかりと先を読みながら感染防止ができる体制を作らなければならない。

跡見学園女子大学 准教授 篠原 靖氏

 

 大西 新型コロナの影響で休業が続いた6月までは、東日本大震災の時以上に深刻で、経営が持たないかもと思った。7月からはGo Toのおかげで、弊社の平均で7月は56%、8月は74%、9月は前年に戻り、小型の施設では前年を上回るぐらいまで回復した。一方、団体客やインバウンドが中心だった施設は5、6割のところもあり、地域や施設の在り方で効果の濃淡が出ている。また、大都市周辺の観光地と遠距離交通に頼る地域でも差が出ている。Go Toでは、大企業がメリットを受けているといわれているが、実際は違う。団体利用の多い観光地の大型旅館や宴会需要が消滅した都市ホテルが一番影響を受けている。9月15日付で観光庁から発表されたGo Toの利用者、支援額から計算すると、1人当たりの支援額が4350円となり、平均宿泊単価は1万2430円になる。高単価の宿は目立ちやすいが、小規模なので、支援配分が高級旅館に偏っているわけではない。

鶴雅ホールディングス社長 大西雅之氏

 

 ――Go Toで低単価の宿の予約がないといわれていることについて。

 冨樫 本当に小規模のところのために何か施策を打つとすると、支援の上限額をぐっと落として低額にするという方法が考えられるが、今の話のように、全員が高いところに泊まっているわけではない。旅行者の動機は、行きたい観光地であり、行った先が安全対策を取っているかどうかだ。こういう時期だからこそ、安全対策をしっかりとしているということを対外的に打ち出すことが求められている。来ていない理由を考え、そしてチャレンジしてほしい。

 ――今後は感染症対策として何が必要か。

 冨樫 5月14日に各業界団体が感染防止策のガイドラインを作成し、対策を講じた。6月19日には旅行者視点での感染防止のための留意点をまとめた「新しい旅のエチケット」を示し、感染拡大の抑止と社会経済活動の維持の両立に向け、官民連携して旅行者への普及、啓発に努めている。各業界団体にも対外的部分でのPRをお願いし、気持ちよく旅行できる環境づくりを進めていく。

 久保田 各業界がガイドラインを作成し、守っているが、まだまだレベル感にバラつきがある。新型コロナへの対応はしばらく続くことが予想され、お客さまに対する安全安心を地域全体で水準合わせすることも重要だ。DMOや地域の観光協会が中心となりレベル向上などの継続的な活動に取り組むべきで、その感染防止対策への活動自体が安心感にもつながる。地域全体での取り組みは、旅の本質である「住んで良し、訪れて良し」に通じる。当協会でも観光を取りまとめる組織に引き続きお願いをしていく。

 大西 北海道では鈴木直道知事が早い段階で独自の非常事態宣言を出した。当初はかなりの経済的ダメージを受けたが、その後の感染抑え込みを考えると非常に良かった。同時に「新北海道スタイル」の安心宣言を出し、「七つのポイント・プラス1」が習慣化した。地域ではマスクの着用、手洗い、健康管理、換気のほか、対人距離を確保するため床に目印を付けたり、マイバッグの使用のお願いなどもした。われわれの地域では8月1日からコロナウイルスの収束と医療者へ感謝の気持ちをカムイ(神)に伝えるイベント「カムイコオリパク(カムイへの謙譲)」を長期間開催している。アイヌ民族にとって新型コロナもカムイである。悪い神ではあるが、鎮まってもらうために謙譲の心をもって接し、尽くさなければならないという考え方はウィズコロナの時代へのメッセージでもある。一方で、経営面では新型コロナ対策はコスト高につながっている。今後、長期化に備えて、これをどう吸収し、労働生産性を向上していけるかが大きな課題だ。

 篠原 もともと旅館の労働生産性の改善が新型コロナ前からの課題だった。新しい旅のスタイルの基準を先進的な経営者のアイデアと国の施策を合わせ、新たな日本のブランドとして全体のレベルを押し上げるような対策が必要だ。旅マエでのPCR検査、抗原検査もセットにするという話もある。官民が協力し、新たなスタイルを考えていかなければならない。

 ――先日、新潟県妙高市の感染症対策をベースにしたオリジナルの感染防止策を観光庁や日本観光振興協会なども参加して発表した。目的や目指すべき姿は。

 篠原 9月23日に「新型コロナウイルス感染症を克服する新たな観光地づくり」というシンポジウムを妙高市で行った。消費者動向を調べるアンケートでは、観光地を選ぶ際の意思決定の大きな一つとして安全が上がっている。今は新型コロナの猛威が落ち着いているが、一つ歯車が狂ったとき、観光地は実際に対策を取れるのだろうか。妙高市では一般市民が協力し、免疫を上げる料理の開発や免疫を上げる運動など感染症対策を医療機関も交えながら地域全体で取り組んでいる。市役所では観光以外の課も含めた横断的なプロジェクトを作り、DMOが感染症対策を査察し、認定マークを与えるという仕組みを作った。新しい観光地の在り方といえるはずだ。

 久保田 DMOを軸に感染防止の水準を上げ、医学、医療関係と連携し、地域全体で対策を取ることだ。アプリの普及も有意義であり、新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)の普及により、早期発見を可能とし、早期で隔離ができる。ホテルのフロントや観光客の利用が多い飲食店など、観光の最前線の人に対しても定期的な検査を行い、早期発見することも地域への感染防止や住民の安心感に有効だ。那須塩原市では12月から入湯税の税率を引き上げ、それを財源に検査が行われる。前向きに捉えて実施する地域にはバックアップチームを作り具体的支援をする方法も考えている。

 冨樫 早期発見と関係者の定期的検査ができれば理想的だ。旅行者は旅館に泊まるだけが目的でなく、地域の観光地を巡ることも大きな要素。地域を挙げた対策が必要となる。今後は、妙高市など全国でうまく進んでいる取り組みの横展開ができればと考えている。ゆくゆくはインバウンドが来るというその時期に向けて「わが国はこれだけ感染症対策に取り組んでいる」と言える状況に持っていきたい。

 篠原 世界中の旅人たちが行き先を選ぶ時には安全な国を選びたいはずだ。安全な日本をプロモーションしながら観光立国を再度立て直すというこうした戦略を、次の時代を考えながら実行していかなければならない。

 大西 冬期間になり新型コロナの再流行を心配している。欧米の状況を考えると悪寒が走る。妙高モデルが日本のスタンダード化することは素晴らしいことだ。安全を確保してブランド化を進めるためのコストを吸収する体制づくり、新型コロナに対応する保険の充実など、整えるべきことはたくさんある。国内観光の活性化だけでなく、東京オリンピック・パラリンピックを成功させ、観光立国としてのかつての勢いを取り戻すには、世界に向かって日本の安全安心を見える化していかなければならない。

 ――Go To後、アフターコロナへの見通しと、観光関係者に向けて一言をお願いしたい。

 大西 恐れているのは、Go To終了ショック。既に先行予約に顕著に表れている。来年1月までは対前年同日比で80%の予約があるが、2月になると25%まで落ちる。国交相の定例会見で1月終了は目安だと発表があり、少しは安心したが、予約の立ち上がりには時間がかかるので、できるだけ早く延長宣言していただきたい。また、いきなり終わる形が一番悪い。できればオリンピック前の6月まで徐々に漸減させていくモデルを作っていただきたい。アフターコロナでは、オリンピックの開催可否、治療薬、ワクチンの完成が大きく影響する。オリンピックができればインバウンドのV字回復は早まり、2023年ごろにはかつての状態に戻るだろう。ワーケーション、アドベンチャーツーリズムといった新しい旅のスタイルの定着やアジアに偏っていたインバウンドを欧米の富裕者層にも拡大することを見据え、業界全体が次の形へとシフトしていかなければならない。

 久保田 9月18日、観光庁に概算要求に係る観光側の要望事項を5項目提出した。引き続き需要喚起策をお願いしたが、ウィズコロナ時代において、観光需要を作ることは地域経済に必ずプラスになるはずだ。アフターコロナに向けては(1)働き方の変化(2)安全安心に対する価値(3)旅に対する人間の根源的な欲求―の三つのキーワードを上げたい。テレワークの普及、ワーケーション整備、好奇心の満足や癒やしなどの需要を満たす体験ツアーの提案が需要につながる。ワーケーションに関しては、経団連と一緒に推進に向け取り組んでいる。今後はスキーをしながら会社の会議に出るというスタイルもあっていいはずだ。働き方、休み方に応じた観光の仕組みづくりをぜひ観光業界の人全員で考えてもらいたい。

 冨樫 世界各国では、サーズ、マーズなど数々の体験を経た上で、新型コロナの対策をしている。日本は過去に経験がなく、だからこそかなり慌てたところがあった。今回の経験を蓄積し、次回に経験を生かせるようにしなければならない。アフターコロナでは、ワーケーション、ブレジャーを取り入れることが重要になる。ウェブ会議も浸透してきた。そういった意味で新しい生活様式はますます進むはずだ。また、これを後押しするような制度が必要だし、産官学民が連携していかなければならない。新しい生活様式に向け、観光庁としても取り組んでいく。また、新型コロナ対策がコスト高になるという話も出たが、今後は人数を制限した中で商売をしていかなければならない。従来通りの収入を得るには、高付加価値化を進め、富裕層を取り込むことが必要になる。日本ではサービスが良くて安いことが当たり前となっているが、世界ではサービスが良ければ高いことが当たり前となっている。わが国もこれに応えられるサービスを提供することが求められている。

 大西 従来から日本のホテル料金は国際標準と比較しても安すぎると思っている。私は5年前から宿泊単価アップに取り組んでいるが、大きな値上げでなく、500~千円のアップ効果は大きい。価格を上げることが、次の手を打つ力となる。アフターコロナの新しい旅の在り方を見据えて、連泊対応できる体制。1泊2食だけでなく、ルームチャージ制を導入しなくては世界標準にはならない。

 篠原 今回は妙高モデルという名前が出てきたが、日本モデルというような読み方に変えていかなければならない。世界に安全安心を見える化することが、日本の今後の復活に向けての大きなキーワードになる。そのためには政府の大きな方針と各自治体、民間事業者それぞれがしっかりと一緒になって日本モデル、安全モデルを世界に見せていかなければならない。

 

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