【特別寄稿】「成功の鍵はAIによる顧客一人ひとりに響くエンゲージメント」 Appier最高戦略責任者 ショーン・チュウ(Sean Chu)

  • 2018年12月25日

ショーン・チュウ氏

旅行業界のマーケティングを飛躍的に改善:成功の鍵はAIによる顧客一人ひとりに響くエンゲージメント

 

エグゼクティブサマリー

 

インターネットの登場、モバイル技術の普及によってオンライン旅行代理店(OTA)が急速に成長しました。そして今、人工知能(AI)などの画期的なテクノロジーの広がりにより、旅行業界は再び大きな変革の時を迎えています。

 

旅行業界のマーケターは、データの専門家ではないため、飛躍的に増える顧客データを管理したり、そこから究極の顧客エンゲージメントを実現するためのインサイトを獲得したりすることに不安を感じているでしょう。

 

こうした課題に対してAIがますます重要な役割を果たすようになっています。AIを活用すれば、好み、興味、インターネット上の行動履歴などに関する大量の顧客データを分析することでパターンを見出し、そこから顧客の将来の行動を予測することができます。AIを使うことで旅行会社は顧客にパーソナライズされた体験を提供し、その結果コンバージョンの増加、ロイヤルティの向上、リテンションの改善を図ることができます。

 

この寄稿では旅行業界のマーケターがどのようにAIを活用し、パーソナライズされた効果的なメッセージングとプロモーションを展開し、そして消費者の適切なターゲティングを通して長期的なエンゲージメントを確立できるかを考察していきます。

 

旅行業界の進化

 

Statistaによれば、旅行・観光業界は現代の最大産業の一つであり、2017年には8.27兆米ドル〈1〉以上世界経済に寄与しています。海外旅行客の数は2017年には13億2,000万人〈2〉に増加しており、2030年までには18億人を上回ると予測されています。

 

旅行業界を劇的に進化させ、旅行業界のマーケターに課題を突きつけるとともに機会ももたらしたトレンドは以下の通りです。

 

  • オンライン旅行代理店(OTA)の普及により、消費者は休暇旅行の計画、予約、スケジュール作成を、従来型の旅行代理店や旅行会社に頼ることなく、自分でできるようになった。

 

  • AIなどの画期的なテクノロジーにより、旅行会社は消費者データを収集し、カスタマイズした体験を提供できるようになった。

 

  • Techraderによると、旅行者の80%がセルフサービスを好む〈3〉一方でシームレスなワンストップの体験を求めている。そのため、自社のウェブサイトへの訪問者をつなぎとめ、さまざまなサービスや商品を購入させたい企業には大きなチャンスがもたらされる。

 

データというモンスターを管理する:マーケターが直面する課題

 

旅行会社とホテルは消費者行動のプロセスの各段階で情報を収集できるため、マーケターは人々の旅行の目的地、好み、予算、家族構成などに関する膨大なデータにアクセスできます。例えば、Amadeusでは、全世界で最大規模の、旅行に特化したデータセンターを持っており、2017年は1日(ピーク時)に390万件の旅行予約を処理しています。〈4〉

 

企業は、データに基づいたインサイトが顧客体験の各プロセスを向上させることを認識しているものの、大半の企業では、実施可能なインサイトを引き出すためのデータの統合と効果的利用ができていません。

 

今日の旅行者はインスピレーションに満ちた独自の旅行体験を求め、旅行の選択肢を評価する時でさえパーソナライズされた体験を欲しています。つまり、検索や発見のプロセスをとても大事にしています。

 

しかしながら、多くのOTAのマーケティング部門には顧客に関する包括的な情報が不足しており、顧客が自社のアプリやウェブサイト以外の場所でどのような行動をとっているかが分かりません。そのためパーソナライズしたサービスができず、収益の損失を招きます。こうした課題を解決するためにAIを活用している企業が出始めています。

 

意義のある顧客体験を提供するためにAIを活用

 

旅行業界で成功した企業ではデータを効果的に収集および統合し、そこから有益なインサイトを引き出し、キャンペーンをカスタマイズし、適切なオーディエンスに適切なタイミングで適切なチャネルにわたってエンゲージしています。最も効果的かつ普及している実用例は、正確なレコメンデーションによるパーソナライゼーションです。

 

革新的企業の取組事例

 

旅行分野の革新的企業はAIを様々な分野で活用し、パーソナライズされたレコメンデーションを提供することで、より良い消費者体験を実現しています。

 

●   エクスペディアは、顧客がフライト目的地として興味を持った地域の宿泊施設を「お薦め」として提案します。

●   Amadeusは、顧客のソーシャルメディア活動から得たデータを統合および分析し、同時に過去の旅行情報、興味、消費意欲などに基づいて旅行に関する彼らの好みについてインサイトを作成しています。次いで同社は、機械学習アルゴリズムを実行し、どのオファーが最もコンバージョンの確率が高いか予測します。〈5〉これらのオファーは、既存顧客との類似に基づいてセグメント化された新規ユーザーにも提示されます。

●   Airbnbは、ユーザーデータを活用した検索機能を提供することで差別化を図っています。〈6〉検索結果は、指定された場所にある宿泊施設の品質に基づいているのではなく、ユーザーの好みと検索履歴にまつわる保管されたデータを基盤にしています。また同社は、機械学習を活用してホストとゲスト双方の好みに基づいて検索結果をパーソナライズすることにより、それらのマッチングサービスを最適化しています。これにより、いっそう正確な組み合わせが実現し、結果として予約の確率が上昇します。

 

 

  • オファー、メッセージング、体験のパーソナライズ

あらゆるオンライン企業や旅行業者にとって、パーソナライゼーションはユーザー体験および収益成長の重要な要素です。Webintravelによる最近の調査によると、アジア太平洋地域の旅行者の64%〈7〉は、より妥当でパーソナライズされた体験が得られるなら、個人情報を進んで差し出すと答えています。

 

AIにより特定の消費者グループに関する基本的情報の「先」を読むことができ、カスタマージャーニーに関するデータや、最近の検索や予約に関するオンライン行動、好み、自社のウェブサイトでの過去のインタラクションなどのデータを統合できます。次いでAIはこのデータを分析し、パターンを発見するとともに、将来の消費者行動を予測します。その結果、消費者が購入しそうな商品やオファーを提案することが容易になります。

 

オーディエンス主導のマーケティング戦略により、それぞれの消費者とのインタラクションを実現しカスタマイズしたメッセージの配信が可能になります。AIは新たなトランザクションが起きるごとに消費者について学習を続けるため、レコメンデーションはますますカスタマイズされ最適化されていきます。企業は消費者ニーズに直接対応することにより、コンバージョンと購入の可能性を高め、顧客のエンゲージメントとリテンションの可能性もアップします。

 

  • 一対一エンゲージメントのための高精度のパーソナライゼーション

これまで以上にきめ細かいパーソナライゼーションを可能にし、マーケターが複数のプラットフォームにわたってデータおよびインサイトを統合し、消費者に本当の意味でカスタマイズされた体験を提供するのが、Appierの「アイコア」〈8〉のようなAI搭載のプロアクティブなマーケティングオートメーション(MA)ツールです。

 

Ⅰ.ブランドのアプリ/ウェブサイト以外での行動に基づいて、ユーザーの意図を理解

自社のウェブサイトで頻繁に航空券を購入するものの、ホテル予約は他社のサイトで行っている顧客を想定しましょう。この顧客がすべての取引を自社のウェブサイトで完結するよう働きかけることで顧客内シェアを高めるにはどうすればよいでしょう。

 

MAツールは、企業のプラットフォーム上での消費者データを分析するだけでなく、それ以外での彼らの興味や行動を理解し、マーケターがパーソナライズされたエンゲージメントを創出できるようにします。こうして収集したデータを更に分析し、消費者の興味データをもとにパーソナライズされたレコメンデーションを提供する際に活用できます。

 

例えば、アウトドア派かつ高級品を好む人は、「グランピング」(豪華なキャンピング)の格好の顧客候補です。あるいは、子供のいる家庭はディズニーランドに大きな興味を持ち、サーファーはバリ島に関するコンテンツをチェックするでしょう。その結果、マーケターはウェブページやアプリの通知や他の適切なチャネルによるメッセージングにこのような貴重なインサイトを活用し、コンバージョンを高めるとともに購入までの時間を短縮し、それを利益率の向上につなげます。

 

Ⅱ.初回訪問者が到着する前にそのニーズを特定

AIを搭載したMAツールは顧客発見においても不可欠になってきており、ユーザーが自社のサイトやアプリにエンゲージする前でさえ、ユーザーの好みを読み解くことが可能です。さまざまなチャネルから統合されたデータを利用して、まだアクションを起こしていない見込み客の好みに合ったコンテンツを提供できます。

 

例えば、ユーザーがウェブサイトを訪問する前にさえ、どのユーザーがフランス旅行に興味を持ちそうかを特定できます。こうした見込み客に、興味を喚起するためのパーソナライズされたメッセージングで働きかけ、その見込み客が初回訪問するウェブサイトのコンテンツをパーソナライズするルールを先回りして設定するのです。

 

このようにオンサイト/オフサイトのユーザーの興味をマッピングすることにより、新規顧客に対してまるで旧知の友人のようにサービスを提供でき、その顧客のライフタイムバリュー(生涯価値(LTV))を効果的に上昇させるとともに、最終的には初回ユーザーを、忠実な顧客に転じさせることが可能です。

 

III. 正しい機会を特定

AIは、消費者へいつ、どのデバイスを通じてリーチすべきか、適切なメッセージおよびオファーでそれに対応し、コンバージョンの確率を上昇させることができるのかを教えてくれます。

同一のユーザーがどのデバイスを所有しているか理解することで、企業は適切なデバイスに適切なメッセージをもって働きかけることが可能になります。AI搭載のMAツールにより、複数のデバイスを横断してオーディエンスを自動的に関連付けできるので、消費者一人ひとりの活動の総合的なビューが得られ、複数の画面にわたって消費者とシームレスにエンゲージすることができます。

 

例えば、ユーザーの最後の行動がスマートフォン上でのニュージーランド行き航空券の閲覧であるとデータが示すなら、そのユーザーが所有するすべてのデバイスに関する単一ビューにより、 同一ユーザーのスマートフォンにニュージーランド行き割引航空運賃の広告を月曜日に配信する一方、同じオファーをタブレットに対しても繰り返すことが可能です。

 

Ⅳ.既存顧客のLTVを向上

Forrester Researchによると、新規顧客の獲得には既存顧客の保持の5倍のコストがかかります。〈9〉ブランド企業は、長期的エンゲージメントと顧客維持が、純粋なコンバージョンよりさらに貴重な評価指標であることを知っているはずです。彼らはすでに、最も貴重な顧客、つまり最大のLTVを上げる顧客を特定するためにデータ分析を行っています。

 

AI搭載のMAツールにより、マーケターは自社のプラットフォーム以外でのユーザーの意図を知り、オンライン行動に基づいてこれらのオーディエンスを細かくセグメント化し、ウェブサイト上での体験を高精度にパーソナライズすることができます。

 

マーケターは顧客の外部での検索データと自社ブランドのプラットフォームにおける過去のインタラクションに関する既存データを組み合わせることで、顧客の意図についてのインサイトを発見でき、アプリ内通知、Eメール、オンライン広告など、多様なチャネルを通じてパーソナライズされた妥当なプッシュ式マーケティングを行い、適切な瞬間にタイムリーな広告で顧客をターゲティングできます。

 

Ⅴ.マーケティング活動を効果的に拡大

AIを活用したMAツールは、キャンペーンのパーソナライズにより、共通の興味に基づいた幅広いオーディエンスに向けて、マーケティング活動を効果的に拡大します。マーケティングオートションは、プロセス上のすべてのタスクの自動化と、手作業の手間とエラーを減少させ、業務の効率性を高めます。AI搭載のMAツールを利用すれば、何百万人ものユーザーのデータベースに、個々のユーザーにリーチするのに適切なタイミングと方法を設定することで、より正確に消費者をターゲティングできます。

 

AIがパーソナライゼーションとすぐれた消費者体験を実現

OTAは多数の要因に基づいてレコメンデーションを行いますが、中でも価格設定は重要な要因です。AIを利用すれば価格の変動を常時に追跡でき、これを消費者の好みにマッピングすることで最良の取引をオファーできます。例えば、Hopper〈10〉 社は航空運賃予測のモバイルアプリを構築しました。これは予測的分析を使用して、人々が最安値の航空便を予約できるようにするものです。

 

急成長している分野は、仮想アシスタンスを提供するためのチャットボットです。自然言語処理を利用し、文脈と個人情報を組み合わせることで、チャットボットがAIを活用して価格設定、旅程、空室在庫の巨大データベースにアクセスし、ユーザーに旅行の計画やスケジュールに関する情報や「お薦め」を提示することで、的確なオファーを顧客に送ることができます。その例がHello Hipmunk 〈11〉です。

 

旅行業界はつねに顧客を中心に事業展開しています。パーソナライズした施策を通じて顧客とつながり、一対一のエンゲージメントを達成する最良の方法は、AIを効果的に活用することです。AIは、価格設定戦略、事業戦略、製品/サービス開発に関するインサイトのデータの収集および分析にも利用できます。

 

〈1〉:https://www.statista.com/topics/962/global-tourism/

〈2〉:https://www.statista.com/statistics/209334/total-number-of-international-tourist-arrivals/

〈3〉:https://www.techradar.com/news/how-ai-is-changing-how-we-travel

〈4〉:https://corporate.amadeus.com/en/about-us/technology-innovation

〈5〉:https://www.analyticsindiamag.com/artificial-intelligence-travel-industry-hospitality/

〈6〉:https://neilpatel.com/blog/how-airbnb-uses-data-science/

〈7〉:http://www.webintravel.com/asia-pacific-traveller-amadeus-journey-of-me/

〈8〉:https://www.appier.com/ja/aiqua-overview-2/

〈9〉:https://www.marketingprofs.com/articles/2017/32621/your-customers-second-purchase-is-the-most-important

〈10〉:https://www.forbes.com/sites/kathleenchaykowski/2018/04/10/the-vacation-predictor-how-the-fastest-growing-flight-booking-app-is-using-ai-to-transform-travel-hopper/#426b840823bd

〈11〉:https://www.hipmunk.com/tailwind/how-hello-hipmunk-helped-pave-way-business-travel-bot/

ショーン・チュウ(Sean Chu)

最高戦略責任者, Appier

ショーン・チュウは、Appierの最高戦略責任者(CSO)として2017年9月に就任しました。チュウは、Appierの成長戦略の策定と実施を統括し、特に企業向けのAIプラットフォームの導入拡大に注力します。チュウは日本を拠点として、日本と韓国における事業拡大を牽引します。

 

チュウは、企業向けITとメディアにおいて、戦略的なコンテント開発、多様な業界とのパートナーシップ構築に20年以上の経験を有します。Appier入社以前は、日本マイクロソフトのマーケティンググループにてシニアディレクターを務めました。それ以前には(株)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント、ウォール・ストリート・ジャーナル、CNBC、モトローラにおいて要職を経験しています。

 

チュウはコーネル大学から機械工学の学士を取得しています。

 

 

【appierについて】

Appier は、AI(人工知能)テクノロジー企業です。企業や組織の事業課題、マーケティングを解決するためのAI 技術およびプラットフォームを提供しています。

インド有数の高級ホテルグループであるタージ・ホテルズはAppierのクロスデバイスキャンペーンにより新規会員の登録数を伸ばしました。香港のLCCである香港エクスプレス航空はAIによって、潜在顧客に関するプロフィール情報を抽出し、マーケティングキャンペーンに活かしています。さらに精度の高い顧客セグメントを行い、デバイスを横断してアプローチすることで目標の予約件数を予定より早く達成することができました。

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